1992年のデビューより、声優として第一線で活躍を続ける緒方恵美。彼女の声優活動25周年を記念して発表される作品が、アニソン・カバーアルバム『アニメグ。25th』。今作は、海外にも作品を届けること、また日本のアニメ業界が抱えている問題を伝えることを目的とし、クラウドファンディングによって制作された。クラウドファンディングは開始直後、わずか90分で予定金額を達成。このクラウドファンディングによる限定版が予定数に達してしまい、入手できなかったファンのために、「一般販売盤」がリリースされることとなった。そしてCDだけでなく、ハイレゾ版として『アニメグ。25th High Edition』も配信が開始(こちらは「My Soul, Your Beats!」が未収録)。なおハイレゾ版では、全曲をアルバムとして一括で購入すると、ボーナストラックとして「太陽がまた輝くとき(Solo Ver.)」と「Moon Revenge(Solo Ver.)」をダウンロードすることができる。
カバー曲は出演したアニメ作品の楽曲から緒方恵美自らが選曲。アレンジャーも緒方が直接に依頼と、自身が歌い手のみならずプロデューサーといった役割も担い、今作の制作に深く関わっている。なおアルバム制作の経緯や楽曲の内容など、『アニメグ。25th』についての詳しい話を今回、緒方恵美に聞いている。これらふたつの連動インタビューも併せてご覧いただきたい。
アルバムの経緯や制作過程、ゲストボーカル曲について聞いた
●リスアニ!WEBのインタビューはこちら
アルバムの各楽曲について詳しく解説してもらった
●リスレゾのインタビューはこちら
「プラチナ」はTVアニメ『カードキャプターさくら』第3期のOP主題歌で、坂本真綾の5thシングルとして1999年にリリースされた。これまでも多くのアーティストにカバーされており、『カードキャプターさくら』の出演者では、桜役の丹下 桜や知世役の岩男潤子に続いて、雪兎=月(ユエ)役の緒方恵美が3人目となる。今回のカバーでは、菅野よう子作曲による原曲のイメージを保ちつつ、バンドサウンドへと少し寄せたアレンジとなっており、鈴木マサキのギターがひときわ冴え渡る。月(ユエ)のイメージに合わせてボーカルのキーも低くなっているのだが、これまでの高域を生かした女性ボーカルによるカバーとは雰囲気が異なっていて新鮮だ。声から包容力が伝わり、またちょっとラグジュアリーな感じでもある。深々と語りかける歌声からは、想いが強く溢れてくるかのようで、優しさとたくましさが混じり合う、情感たっぷりの楽曲となった。冒頭の“I am a dreamer”の言葉は、夢をかたちにする声優である緒方恵美の姿であり、また歌詞全体も困難な壁を乗り越えて想いを届けようとする今回のプロジェクトと繋がっているように思える。アルバムの1曲目に選んだのもとても納得できる。
「不完全燃焼」は2011年に放送されたTVアニメ『神様ドォルズ』のOP主題歌。作詞・作曲、歌を石川智晶が担当している。アレンジは、「ユウキアイマジン(courage & imagination)」(アルバム『real/dummy』収録)などを手がけ、緒方恵美の洋楽カバーライブ「M’s BAR」のメンバーでもあるmanzoが担当。石川智晶とはmanzoを通じて知り合いとなり、呑みに行って意気投合したとのことで、のちに石川智晶は、緒方恵美のアルバム『Desire -希望-』に「「僕は」」を提供している。今回のカバーでは印象的なギターのフレーズはそのままに、電子音のリズムと優美なストリングスを加え、楽曲をさらにドラマチックなものへと再構築。石川智晶の神秘性に対する緒方恵美の人間性ともいうべきか、渦巻く情念が湧き上がってくるボーカルからは、その生々しさがよりいっそう伝わってくる。
「神様のいたずら」は、2011年に放送されたTVアニメ『たまゆら~hitotose~』のED主題歌で、原曲はOVA第1作や続編のエンディング主題歌、また挿入歌も担当している中島 愛が歌唱している。そして、作詞・作曲は大江千里、アレンジは清水信之という80年代を彷彿とさせる組み合わせだ。今回は『たまゆら』シリーズにて挿入歌を手がけているmarbleの菊池達也がアレンジを担当。小編成によるアコースティック・セットにて、叙情的なメロディーを丁寧に奏でる。『たまゆら』では主人公・沢渡 楓の母親役を演じている緒方だが、ここでは主人公の気持ちにそっと寄り添うように、また他界した夫の想いに自らを重ねるように、慈しみをこめて歌っており、その抑揚からこぼれる切なさが心にぐっと迫ってくる。
「Moon Revenge」は、1993年に公開された劇場版『美少女戦士セーラームーンR』のED主題歌。映画のクライマックス・シーンにて使用され、多くの観客の涙を誘った名曲である。原曲は月野うさぎら5人のセーラー戦士による歌唱だったが、今回はセーラーウラヌスこと天王はるか役の緒方恵美と、セーラーネプチューンこと海王みちる役の勝生真沙子とのデュエット。そして、アレンジはクラムボンのミトという最強の布陣だ。オーケストラル・ヒットのキメを多用した林 有三(『ハチミツとクローバー』『さくら荘のペットな彼女』などの劇伴を担当。「Moon Revenge」と同じく小坂明子作曲による「タキシード・ミラージュ」のアレンジも務めている)のアレンジを踏襲しながら、さらにテン年代へとアップデートしたサウンドとなっている。そして緒方恵美とともに、勝生真沙子の当時と変わらない透き通るような歌声にまた涙。ファンの胸を熱くする、素晴らしい仕上がりだ。
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