INTERVIEW
2018.01.17
寿 美菜子が3rdアルバム『emotion』をリリースした。前作から3年以上の期間を経て完成した今作では、新録6曲すべての作詞を寿本人が担当。自身の趣向も強く反映した意欲的な作品に仕上がっている。
リスレゾでは、初となる作詞を手がけることになった経緯や、自身の想いをどのように表現したのか?など、作詞について掘り下げたインタビューを実施。またミュージックビデオやライブ、SONYとコラボした”We are SPHEREモデル”についても詳しく語ってもらった。
Interview & Text by 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
寿 美菜子『emotion』のレビューはこちら
──前作『Tick』から3年以上ぶりのアルバムリリースですが、制作過程に何か変化はありましたか?
寿 美菜子 『Tick』は、とにかくやりたかったことにチャレンジしたアルバムでした。ジャジーなダンス曲の「MAGNETICA」や、強めのロックの「ウレイボシ」ですとか。ただ、お客さんがどう受け止めてくれるか想像できないまま作っていた部分があるんです。でも、『Tick』を経てからの最初のシングルに「black hole」を選んだ段階から、ちょっとずつ道が広がって太くなった印象があって、その延長線上をもっと歩きたいと私自身も思ったんですよ。挑戦した楽曲に対して、ありがたいことにお客さんからもいいレスポンスが返ってきて、自分で「エッジが利きすぎかな」と思うものも寿 美菜子色を混ぜて伝えれば、それが皆さんにちゃんと響くとわかったんです。その色を混ぜる塩梅はずっと悩んでいる部分でもあるんですけど、これまでの経験が今回のアルバム『emotion』を作るにあたって活かされていると思います。ですので、聴いてくれる皆さんが受け止めてくれることを信じながら、『Tick』からさらに先へと進んで、アルバムを作ることができました。また、シングル曲が濃かった分、足りない部分を埋める曲や、トライしたい要素のピースをはめていく作り方ができたかなと思います。
──新録6曲がすべてご自身による作詞とのことですが、こちらはどのような経緯で挑戦されることになったのでしょうか?
寿 打ち合わせでジャケットや曲のアイデアを出し合っているときに、私から作詞がしたいですと提案させてもらいました。前々から「作詞とかどうなの?」という話題はふわりと出ていたんですけど、シングルはどうしてもタイトなスケジュールで作ることが多いこともあって実現しなくて。曲のテーマや方向性に関しては毎回意見を出させていただいているんですが、同じ人間ではないのでクリエイターさんと私で解釈に多少のズレはあるんです。そのズレはどうやったら整うんだろうと考えたときに、自分で書くしかないんだろうなと思い至って。書いてみないとどこがズレるのかわからないし、とにかくやってみないとと思ったんです。それで最初は1曲でもいいからトライしようという気持ちでした。でも、実際にどの曲を作詞するかという段階になったときに、ひとまず出揃った全部の曲にトライしてみて、曲ごとにデッドラインを決めて、そこに間に合わなければ作詞家さんにお願いするという形にしてもらったんですよ。
──なるほど。とはいえ、なかなか大胆な方法ですね。
寿 最初の曲から順に全部ボツになっていっても、最後の1曲くらいは書けるだろうと(笑)。最終的に1曲書くために、全曲に当たって砕けるくらいのつもりだったんです。でも書いてみると意外と楽しくて。最初は闇雲に書いて、そこからディレクターさんに赤ペン先生のように「作詞とは」を教えてもらったんです。そのときに私の中で、作詞は役作りに似ているなと思えたんですよ。歌詞は自分自身でありつつも、自分の解釈を入れながら別の主人公を描いている気持ちがあって、そこが普段している役作りと似ているかも、と。そういう発想から、言葉のチョイスをひとつ取っても「この主人公だったらこういう言い回し、語尾になるよね」ということがわかってきたんです。それは自分の普段の癖も見つめることができて、私は自己探求や分析も好きな方なので、「じゃあ私は普段の役作りもここをすっ飛ばしてやってるんだな」とか(笑)、役者としての自分にも繋がる感覚があったんです。やればやるほど自分のことが知れるかもと、楽しくなって1曲目は書き終わった感じです。
──結果完成したアルバムで6曲の歌詞を書かれているということは、その後ほかの楽曲でも歌詞をスムーズに書くことができたんですね。
寿 あまりにペースよく書けすぎて、最後の方に書いた曲は「枯渇するかも」という不安も少しありました。周りからもここまで書けると逆にちょっと怖いわと言われましたし(笑)。自分でもこのペースで最後まで走りきれるのかと思いながらの作業でしたね。今回は初めてのトライだったので、まったく別人格を書くというよりは自分の目線やフィルターを通しての誰かを書いたものが多くて。なので、次に繋がる部分もまだ残っているんじゃないかと思います。収録シングル8曲を見るだけでも、どれも作詞家さんの歌詞が素晴らしくて、それだけいいお手本があったからこそ「じゃあ自分はこうしたらいいのかな」と参考になった部分は多々ありますね。
──MVも制作されているリード曲「Ambitious map」はリズム、譜割りともに非常に難解で、初作詞にはハードルが高そうな印象を受けました。
寿 「Ambitious map」は「I wanted to do」と同時進行で書いていたんですよ。両方あるから行ったり来たりできたことがよかったというか。普段の声優のお仕事も1日にいろんな役を演じることがあるので、意外と1役にずっと集中するよりも、行ったり来たりする方が感覚的には集中できるんですよ。「Ambitious map」はすごく盛り上がれる楽しい曲で、そのワクワク感を伝えたかったので、自分とは別の主人公を設定して書いた「I wanted to do」よりも、自分自身のパーセンテージを上げて私色を強く出せればと思っていたんです。なんですが、自分のことを書いたつもりが意外と「え、こんなこと言う?」「こっちの言い回しの方がらしくない?」と言われたりして。素のテンションでいる私と、外側から見えている私とのバランスが難しかったんですよ。人前にいるのが嘘の自分という意味ではまったくないんですけどね。そういうアドバイスもいただいて、結果的には私自身であり、お客さんが思う「美菜子言ってそう」という言葉のバランスがちゃんと取れている曲になったんじゃないかと思います。
──どのような部分で、外側から見た寿さんと本人の意識に差異があったのでしょうか?
寿 自分が思う私より、外から見た私の方が強気な感じなのかなと思いましたね。歌詞はひとりで夜な夜な書いていたりするので、ライブでステージに立っている自分のテンションとは違ってしまうんですよ。そうすると温度感が落ち着いてしまうので、熱量を上げる方向に修正していきました。例えば「〜してね」を「〜してよ」に変えたり、語尾を少し変えるだけで全然印象が違うんですよね。
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