REPORT
2018.01.08
プロデューサーミーティングや台湾ライブといった2017年の出来事を振り返るトークを挟んでの後半戦は、10年前に生まれた伝説の楽曲「オーバーマスター」で幕を開けた。蛇足かもしれないが説明すると、時は2008年のパシフィコ横浜。「Go to the NEW STAGE! THE IDOLM@STER 3rd ANNIVERSARY LIVE」のステージにて、黒井社長が放った961プロの刺客・最強のライバルアイドルユニット「プロジェクトフェアリー」として登場したのが当時全く無名の新人だった沼倉愛美、原由実、そして星井美希が765プロから引き抜かれたという設定で参加した長谷川明子の3人だった。765プロを超える実力を持つスーパーアイドルを演じることになった新人たちに、「アイドルマスター」サウンドプロデューサー中川浩二氏が自ら作曲して贈った剣が「オーバーマスター」だ。楽曲、衣装、演出の力を借りて、いくらか背伸びをして最強の存在たらんとしていた3人が、10年の時間と努力に磨かれてステージに立った。経験が育んだ、3人が並び立つ千両役者感、存在の強さ。今の3人こそが黒井崇男が理想を託したアイドルの姿そのものであるように思えた。
「迷走Mind」を歌う平田宏美の姿は、衣装のイメージも相まって凛とした武道家のよう。見得を切る姿も鮮やかだ。この時点でソロ曲は演者自身の希望を反映していることはわかっていたので、あ、「自転車」は選ばなかったのかと思ったのだが、平田自身も最初に「自転車」を思い浮かべ、そのあと「迷走Mind」をしばらく歌っていないことを思い出して選び直したと聞いて少し嬉しくなった。「迷走Mind」に対する会場の熱い反応を感じた平田は、次のライブでも歌いたいと満足げに語っていた。
長谷川の「追憶のサンドグラス」は「アイドルマスター ミリオンライブ!」の初期曲。歌唱中の長谷川のまっすぐに射抜くような、すべてを見通すような眼差しが印象的だ。クールさ、かっこよさ、天才性といった属性は星井美希の魅力の半面として常にあったものだが、絶叫するように自身の限界に挑戦していく姿は、今の長谷川によりぴったり来るような気がした。ラストのキメのシルエットは今も昔も変わらない鮮烈さだった。
沼倉の「Rebellion」は「LTP03」に収録された「ミリオンライブ!」楽曲なのだが、「THE IDOLM@STER 8th ANNIVERSARY HOP!STEP!!FESTIV@L!!」そして「THE IDOLM@STER 9th ANNIVERSARY WE ARE M@STERPIECE!!」で彼女の代表曲のひとつとして共有されたこともあり、765プロライブの楽曲として定着している気がする。響のイメージカラーに染まっていた客席が「真実の赤」の叫びと共に一斉に真紅に染まる様子はやはり鮮烈だ。歌唱中、ノイズが走ったスクリーンの中の沼倉に一瞬響が歌う姿がオーバーラップする演出には会場から歓声が上がる。それはアニクラ的なスタイリッシュさがあると同時に、パフォーマンスの面でも響と重なる沼倉のイメージにぴったりと合っていた。
中村と今井の新たな挑戦とも言えたのが「CRIMSON LOVERS」だった。MONACA広川恵一氏がもたらしたプログレッシブに歪む不協和音の世界、田淵智也感が前面に出たベース、荒れ狂うドラムサウンド。強いて言えば「I want」の先にある感じだろうか、これまでのアイマスサウンドにはあまりなかったタイプの超難度の楽曲の中で、それでも春香らしい歌声のニュアンスや、千早らしい歌声の伸びやかさが垣間見えるせめぎあいがいい。この曲にライブでトライすること自体が、これからも変わり続け、攻め続ける765プロの挑戦を象徴している気がした。
幅広い世代、幅広いジャンルに広がるアイマス楽曲だが、アーケード版「アイドルマスター」の“最初の10曲”に関しては、一際実験性と独自性が強い。フルサイズでは10年ぶりにライブで体感する「9:02pm」はよりジャジーで、トランペット主体のオーケストレーションの壮大さや分厚いコーラスを強く感じる。笑顔で歌うたかはしの歌唱は分厚く濃厚で、ふくらみのある表現なのだが、その奥にしっかりと三浦あずさの顔が浮かぶ。その彼方に見える、満天の星。出演者で唯一、オールドソング2曲を選んだたかはしだが、かつての楽曲の中で今の自分、新たな三浦あずさの姿を描き出そうとする姿勢は、間違いなく挑戦者のものだった。ラストのずーっと…の夢のような余韻に重なるように会場から沸き起こったのは、歓声ではなく純粋な拍手の雨。MCの頭、たかはしがぽつりと呟いたのは「祈らせていただきました」の一言だった。
仁後、沼倉、下田、平田の「Light Year Song」は前日に続き披露。響ややよいの年齢相応の、あるいはそれ以上に幼い童女のような歌声が優しく染みこんでくる。その歌声が前日より心に響いた気がするのは、直前のたかはしの「9:02pm」の歌声と想いの余韻が会場に残っていたからではないだろうか。歌い続けた古ぼけた歌を、ずっと待っていた人たちの元へ。流れ星がふる中、4つの歌声がひとつに溶け合い、力強い誓いの言葉に変わっていく様子に、これからも続いていくアイドルマスターと765プロの世界を幻視した気がした。
2日間の大トリを務めたのは、今井の「細氷」。スモークが焚かれた幻想的なステージに、先ほどまで星の輝きを映していた光たちがダイヤモンドダストの煌めきに変わる。テンションの高まりとともに、限界がないかのような高みに飛翔していく歌唱は、今井麻美そのものであり、如月千早そのものでもあり。その境界があいまいなほど、お互いの存在が深く根ざし、絡み合っているステージだ。ラスト、今井が歌声の余韻を意図的に断ち切るタイミングで掲げた手のひらを握りこむと、会場全体を濃密に満たしていた歌声と空気の全てがその手に掴みとられたように感じた。歌い終えた今井の言葉からは、前日のステージで見せた笑顔を手にした千早と、今日表現した孤高で研ぎ澄まされた永遠の問題児である千早の両方に等しく愛情を注いでいることが伺えた。
ラストナンバーは「Destiny」。出会えたことへの感謝ときらめくステージへの想いを明日へとつなげていく歌声は、ステージから客席に贈る、そしてプロデューサーからアイドルたちへと贈る、今の「アイドルマスター」を巡る想いを象徴するようなステージだった。
アンコールでは社長から、「THE IDOLM@STER ニューイヤーライブ!! 初星宴舞 アンコール上映会」(ライブのレイトビューイング)を2018年2月10日~11日に開催することや、PS4「アイドルマスター ステラステージ」にDLC専用曲「MEGARE!」「私たちはずっと…でしょう?」「Fate of the World」、新曲「星彩ステッパー」が登場することが発表された。また、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」に「READY!!」の実装をすることの発表と共に新CMの初公開が行なわれた。今回のライブは「アイドルマスター」のゲーム関連楽曲が多く歌われたこともあってか、「私たちはずっと…でしょう?」や「READY!!」のアニメ関連楽曲の話題には一際熱い歓声やコールが飛んでいた。
アンコール、4年ぶりのフルライブに挑んだ765プロの演者たちに、「自分REST@RT」ほどふさわしい楽曲はなかっただろう。ラストの挨拶では“天海春香役の中村繪里子です”を自分を一番幸せにする言葉として挙げた中村、10年前に貴音役に決まった時に見た、キラキラの765プロアイドルと今共演する不思議さ・嬉しさを語った原など忘れられない言葉が続き、「これからのライブ」に向けての前向きな言葉が並んだ。その流れを締めくくり、ステージにこの日一番の歓喜と涙の渦を呼んだのは、仁後真耶子の言葉だった。
「アイドルマスターが続く限り、私が頑張れる限り、大好きって言ってくれる人が一人でもいる限り続けていきたいです。これからも、765プロのみんなのこと、大好きでいてくださいね~! 約束の、ハイターッチぃ! プロデューサー、大好きです!」。
Text By 中里キリ
THE IDOLM@STER ニューイヤーライブ!! 初星宴舞
2018.01.07 千葉・幕張イベントホール 2日目
セットリスト
M01:THE IDOLM@STER -初星mix-(765PRO ALLSTARS)
M02:ステキハピネス(中村繪里子)
M03:フラワーガール(原由実)
M04:放課後ジャンプ(下田麻美)
M05:全力アイドル(釘宮理恵)
M06:BRAVE STAR(中村繪里子、今井麻美、若林直美、原由実)
M07:虹のデスティネーション(釘宮理恵、長谷川明子、たかはし智秋)
M08:ブルウ・スタア(平田宏美、沼倉愛美)
M09:ゲンキトリッパー(仁後真耶子)
M10:いっぱいいっぱい(若林直美)
M11:七彩ボタン(釘宮理恵、たかはし智秋、下田麻美+若林直美)
M12:ら♪ら♪ら♪わんだぁらんど(平田宏美、天海春香、若林直美、今井麻美、仁後真耶子)
M13:オーバーマスター(長谷川明子、沼倉愛美、原由実)
M14:迷走Mind(平田宏美)
M15:追憶のサンドグラス(長谷川明子)
M16:Rebellion(沼倉愛美)
M17:CRIMSON LOVERS(中村繪里子、今井麻美)
M18:始めのDon’t worry(釘宮理恵、長谷川明子)
M19:9:02pm(たかはし智秋)
M20:Light Year Song(仁後真耶子、沼倉愛美、下田麻美、平田宏美)
M21:細氷(今井麻美)
M22:Destiny(765PRO ALLSTARS)
EC01:自分REST@RT(765PRO ALLSTARS)
EC02:ToP!!!!!!!!!!!!!(765PRO ALLSTARS)
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