今秋に放送スタートした梅田阿比原作のTVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』。砂の海に覆われた世界をさまよう漂泊船<泥クジラ>を舞台に、そこで外の世界との接触を絶って暮らす人々に訪れる劇的な運命と、それに抗わんとする少年少女たちの記録を描いたハイ・ファンタジー作品だ。<情念動(サイミア)>と呼ばれる感情を源とした超能力をはじめ、多くの謎を隠し持つ幻想的な世界設定や息もつかせぬストーリー展開などで、早くも今期話題のタイトルとなっている。
そんな注目作のOP主題歌「その未来へ」でメジャー・デビューするのが、ここで紹介するシンガー・ソングライターのRIRIKO。高校生の頃から都内を中心にギターの弾き語りスタイルでライブ活動を行い、現在は東京音楽大学でソングライティングを学ぶ才媛だ。とあるきっかけで『クジラの子らは砂上に歌う』という作品に出会い、その世界観に寄り添う形で自身のあらたな一面を引き出して制作したという今回のシングルについて、RIRIKO本人にたっぷりと話を聞いた。
なお、リスレゾでは、同じく本アニメのED主題歌「ハシタイロ」でメジャーデビューする女性シンガー・ソングライター、rionosのインタビュー記事も同時展開。ぜひ併せてチェックしていただきたい。
――RIRIKOさんはシンガー・ソングライターとして活動されてきたとのことですが、これまでの活動について教えてください。
RIRIKO 叔母に薦められて11歳の頃からギターを習い始めたんですけど、最初は人前で弾くのは苦手で。でも、家族や友だちにギターを弾いて聴かせるとすごく誉められるので、だんだん「私、これ得意なのかもしれない」って自分でも自信を持てるようになったんですね。そこから人前で歌ったり発言をしたり、自分を堂々と見せられる性格になって。で、中学生のとき、試しに自分で曲を作ってみたら、意外とすんなりできてしまったんです(笑)。それを周りの人に聴かせてみたら、また誉められたので、うれしくなっちゃってたくさん曲を作っていました。気づいたら将来の夢がシンガー・ソングライターになっていて、今に至ります。高校で軽音楽部に入って、そこでいろんな仲間たちに出会ってから、ライブハウスで活動するようになりました。
――その頃に影響を受けたアーティストは?
RIRIKO 当時ずっと聴いていたのはYUIさんで、そのほかにもレミロメンさんの「粉雪」とか、いろんな楽曲をコピーして歌ってたので、それらでコード進行のパターンとかを覚えた感じです。今は東京音楽大学のソングライティングコースという、J-POP寄りの作詞作曲を学べる学科に通っているので、いろんな音楽に触れる機会が多くて。バンドも好きですし、ジャズやフュージョン、EDM、アニメソングなど、なんでも聴きますね。
――大学では谷村新司さんからも教えを受けてると聞いてビックリしました。
RIRIKO 大人の方のほうが谷村先生の授業を受けたがってるというお話はよく聞きます(笑)。谷村先生は客員教授でいらっしゃってて、作詞の授業を担当されてるんですけど、改めて言葉と向き合う機会になって勉強になります。私はメロディ先行で曲を作るタイプで、以前はメロに気持ち良くはまる言葉で歌詞をつけていたんですけど、谷村先生やいろんな先生方に作詞を見ていただくなかで、曲の展開に合わせた詞の展開とか、言葉に対する自分の目線をすごく考えさせられるようになって。作詞は大学生になってからすごく成長できた部分だと思います。
――普段、曲はどのようにして作られるのですか?
RIRIKO 歌とギターで作ります。大学でDTMを学ぶようになってからは自分でドラムを打ち込むので、たまにリズムから作ることもありますけど、基本的にはお風呂とか道を歩いてるときに浮かんできたメロディを録音して、それにコードを合わせていく作りですね。
――やっぱりギターはご自身にとって大切な楽器なんですね。
RIRIKO アコースティックもエレキもやってるんですけど、いちばん長い時間触ってる楽器ですからね。私よりギターのうまい人が現れると、「私も頑張る!」という気持ちが強くなります。歌のうまい人が現れても同じ気持ちですね。自分のことをいろいろ成長させてくれた楽器ではあると思います。
――そういった活動を経て、今回『クジラの子らは砂上に歌う』のOP主題歌「その未来へ」でメジャー・デビューされますが、どういった経緯でテーマ曲を担当することになったのでしょうか。
RIRIKO 私、普段は仮歌のお仕事をしてるんですけど、その繋がりで今回の楽曲をアレンジしてくださった原田アツシさんと以前からやり取りをさせていただいているんです。それで今年の5月頃に原田さんから『クジラの子らは砂上に歌う』のOP主題歌のお話をご提案いただいて、自分もぜひやってみたいと返事したら、イシグロ(キョウヘイ)監督が私のデモCDを聴いてくださったみたいで。その中に今回の「その未来へ」の元になる曲が入ってたんです。
――あの曲には原曲があったんですね。
RIRIKO そうなんですよ。高校生のときに作った曲なんですけど、監督が気に入ってくださったみたいで。一応書き下ろしで新しい曲も作ってたんですけど、結局その曲を元にすることに決まりまして。それからは感慨に浸る間もなくお話が進んでいって、最近やっとメジャー・デビューの実感が湧いてきました。
――『クジラの子らは砂上に歌う』という作品についてはどんな印象を持たれましたか?
RIRIKO 今回のお話をいただいて初めて原作を読んだんですけど、そのときに出ていた単行本9巻分を一気に全部読んでしまうぐらいのめり込んでしまって、すぐ作品のファンになりました。梅田先生の絵がすごくキレイだなと思って読み進めてたら、衝撃的な展開になってボロボロ泣いてしまって。異世界が舞台のファンタジー作品なのに何でこんなに自分の心にスッと入ってくるのか考えたときに、やっぱり人の感情をテーマにしてるからだと思ったんです。リコスがどんどん感情を取り戻していくところとか、人の感情の表し方に共感できることが多くて。人間の活き活きとした強い部分も弱い部分も描かれてるので、それを全部曲にしたいと思いましたね。
――原作を読まれて印象に残ってるシーンは?
RIRIKO ありすぎるぐらいなんですけど、いちばんはハクジ様という長老が「ずっと未来(さき)まで、生きてくれ」と言って子どもたちが扉を開けているシーンですね。そこの一枚絵にすごくグワーンときて、未来を「さき」と読ませているのも印象的で思わず詞にしちゃいましたし、タイトルにもしました。泥クジラの大人のキャラクターたちは、<印(シルシ)>持ちの短命な子どもたちの未来を本当に願ってるんですよね。
――そこが楽曲のできるきっかけにもなったんですね。
RIRIKO そうなんです。イシグロ(キョウヘイ)監督からの楽曲に対する要望としてあったのが「クジラの世界を客観的に見て欲しい」ということで、それは私が今まで書いたことのない詞の世界観だったんですよ。私は今までシンガー・ソングライターとしてひとりでギターを弾いて歌ってきたので、やっぱり歌詞は「僕」とか「私」という目線で書いてしまうので。だから原作を何度も読み返して歌詞を書いたんですけど、感情移入しそうになると「ダメダメ!」みたいな感じで苦労しました(笑)。
――たしかに歌詞は“運命を 感情を 抱くべき子たちよ”など俯瞰視点で書かれてますね。物語の登場人物を見守っている感じというか。
RIRIKO そうですね。見守ってるし、願ってる。今回のシングルのジャケットは、私の曲を聴いていただいたうえで絵を描いていただいたんですけど、実は後に泥クジラの首長になるスオウ目線で描かれてるんですよ。だから、ジャケットにはスオウが守りたい人たち、泥クジラにいる子どもたちの姿しかないんです。楽曲の世界観を汲み取っていただいて、本当にありがたいですね。
――rionosさんによるED主題歌「ハシタイロ」はリコス視点で書かれた楽曲なので、視点的にはそこと対照的な作りにもなってますね。
RIRIKO はい。主観的と客観的ということで。それを意識して聴いていただけると、いろいろ原作とリンクしてる部分が見えてくるんじゃないかと思います。
――アニメ制作側からはほかに何かオーダーはありましたか?
RIRIKO 曲自体の構成やメロディーは原曲のままなので、主に詞の部分ですね。あとはサウンドの面でアコースティック・ギターやパーカッションを使って民族音楽のような雰囲気を出したり、砂漠が舞台のお話なので少し乾いた感じの音という要望はありました。
――個人的に聴かせてもらって思ったのは、作品の世界観は切なかったり儚いものですけど、歌声やサウンドはそれに反して力強いものになっていますね。
RIRIKO ちょっと爽やかかもしれないですね。でもだからこそ、それが泥クジラの人たちの軸の強さを表したものになると思うので。泥クジラで生きる人は一人ひとりが強くて、芯があって、活き活きとしてるので、その強さを曲にしたいと思ったんです。で、その活き活きとしたなかでの人の弱さを詞にしたくて。悲しいことの多い物語ではあるので、せめてオープニングが癒しになってくれたらという想いもあります。みんなを癒す砂漠のオアシスというか、救いというか。
――歌声には運命に抗うクジラの子らを先導していくようなイメージも受けましたが、歌入れはどのようなお気持ちで臨まれましたか?
RIRIKO 最初は感情的に歌うことも考えたんですけど、あまり感情を込めてしまうと逆に距離が近くなって、客観的ではなくなってしまうと思って。なので、遠いところから歌っているようなイメージはしました。でも、ところどころの切ない気持ちを訴えたい部分では感情を入れて。
――あと個人的に気になったのは2番の“uh…ta… uh…ta… uh…taitakatta”のところで。そこは俯瞰目線というより、誰かの気持ちに寄り添った箇所に思えたのですが。
RIRIKO あそこは私的には、歌詞も含めて死んでしまった子たちをイメージしていて、未来が無くなっちゃった子たちがあの世で歌っているイメージなんです。それもある意味見守ってる立場でもありますし。なので歌声もエアリーな感じにしました。
――そういったお話を聞くと、本当にクジラの世界観を表現した楽曲になっていることがわかります。ほかにこだわられた部分はありますか?
RIRIKO やっぱり歌詞はすごく考えたので、こだわった部分ですね。サビの“その先へ その未来(さき)へ”の箇所は1回目の“その先へ”と2回目の“その未来へ”で表記を変えていて。歌い方も同じことをただ繰り返しで歌ってるのではなくて、その先からもっとその先へ続いていく、進んでいくようなイメージにしているので、そういったポイントも感じ取ってもれるとうれいです。
――今回初めてアニメのタイアップ曲を制作されましたが、作品に寄り添って楽曲を作ることによって、自分の中で新しく得られたことはありましたか。
RIRIKO この作品だからということもあるんですけど、俯瞰的に見て曲を書くのは初めてだったので、勉強にもなったし、それが自分にもできたことで自信にもなりましたね。中学生の頃とかはまだ人生経験が全然ないので、自分が読んだマンガや小説がもし映像化されたらこういう曲を書くというのを想像しながら曲を作ることもあったので、それがリアルになったという部分で感動もあります。でも、こういう壮大な歌詞を書けたのは初めてですし、自分の表現の仕方にしてもパフォーマンスにしても幅が広がったと思います。
――自分の楽曲が初めてアニメのOP主題歌として放送されたときの感想は?
RIRIKO いやあ、拍手しました。「うわーっ!すごい!もう一回見よう!」ってなりましたね。OPアニメも、絵コンテをいただいたときに、自分で「ここはこうしてほしい」と思ってた部分がイメージ通り絵になってたりしていて。例えば“幾千の声 空想の地へ”の部分はいろんな人たちが歌ってるシーンがいいなと思ってたら、本当にその通りになっていて感動しました。私が曲を作るときに妄想しすぎなんですけどね(笑)。
――曲を作ってるときからそういったビジュアルが浮かぶんですね。
RIRIKO ちょっと気持ち悪いと思うんですけど、初めて曲を作ったころは、自分の曲が合うと思った作品があると、そのOPアニメの音声をミュートにして、自分の曲を流して合わせることがあって(笑)。だから今回の『クジラ』のオープニングで私の曲が流れて、クレジットにRIRIKOと書かれているのを見ると感慨深いです。
――ご本人出演のMVも制作されてますが、あちらの撮影はいかがでしたか?
RIRIKO 野外での撮影のときは雨が降りそうだったのでパパパッて撮っちゃったんですけど、後から聞いたら監督していただいた方はすごくこだわりを持たれている方で、1、2回でOKが出るのはすごいって言ってくださって。実は家で事前に練習してて、口パクでギターを弾くシーンでは、アルペジオも普段よりも大きく弾かないと伝わらないし、口もちょっと大きめに開いたり、表情をつけたりとかは意識してたので、練習しといて良かったです(笑)。
――野外のシーンでは空に巨大なクジラが浮かんでいるのも印象的でした。
RIRIKO あれはタコみたいなものを実際に浮かせていて、坂の向こう側では8人ぐらいのスタッフさんが引っぱってくれてるんですよ(笑)。めちゃめちゃ大きくて30メートルぐらいあるんですよね。普段そんなサイズのものが浮いてることってなかなかないですし、CGではなくてリアルで撮ってるので、生の力強さが出てますし、かなりインパクトがあると思います。
――ではカップリング曲についても聞かせてください。「Take Off!!」はストレートなギター・ロックでめちゃカッコいいですね。
RIRIKO ありがとうございます!これは高校のときに軽音部で組んでたバンドで作った曲なんです。当時のものからキーは変えて、アレンジもギターを何本も入れてもらったり、北村(望)さんが自分の欲しいところにバシバシとドラムを叩いてくれて。元々あった曲ではあるんですけど、新しく生まれ変わりましたね。
――歌詞の主人公がずいぶん弱気なイメージですけど、どんなお気持ちで書かれた曲なのでしょうか?
RIRIKO たしか「周りの意見を気にしてグラついてる自分」というイメージで書いてましたね。今回がデビューでもあるので、もっと飛び立つ「Take Off!!」的なイメージの歌詞も新しく考えてたんですけど、こっちのほうが人間味があっていいということで。高校時代の作品をそのまま出せてうれしいです。
――でも、最後はちゃんと希望のある終わり方をしていて、聴いてる人の背中を押してくれる曲だと感じました。
RIRIKO 前向きに、それこそ飛び立っていくっていう気持ちを込めていて。同じ目線に立ちつつ、背中を押してあげられる曲になってると思います。この曲はライブで生バンドをバックに歌いたいですね。自分でエレキを弾いて、みんなで盛り上がりたいです!
――もう1曲の「時の砂」は、チェロの音色が優しく響くアコギメインのバラードです。
RIRIKO これは去年ぐらいに作った曲で、歌詞はワンコーラス目しかできてなかったので、それ以降は新しく作りました。今回は表題曲を俯瞰的に書いたので、こちらは主観的に書こうと思って。内容としては、別れは遠いものだと思ってたのに、こんなに近いものだったんだという気持ちから始まって、その相手を思い出すという曲ですね。最初はギターで淡々と悲しく、ちょっと遠くを見てる感じなんですけど、2コーラス目から楽器が増えていって、だんだんと実感が湧いて感情が昂ぶっていくイメージで曲と詞を作りました。
――普段のRIRIKOさんのスタイルが出ている印象を受けました。
RIRIKO 学校の先生方からも「これめっちゃいつものRIRIKOじゃん」って言われました(笑)。本当にシンガー・ソングライターとしてのRIRIKOのこれまで作ってきたような楽曲でもありますね。
――ただ、歌詞の内容はどこか『クジラ』の世界観ともマッチする部分がありますよね。タイトルに「砂」が入っていて、別れの歌でもありますし。
RIRIKO そこは意識したというか、だんだんと当てはまっていったというのが近いと思うんですけど、歌詞を書いているうちに感情がテーマという共通点を介して寄り添っていけたんじゃないかと思います。曲がフェードアウトで終わっていくのも「どこまでも続く世界」をイメージさせれたらと思っていて。別れと、時間の流れの残酷さと、感情的な部分があって、曲的には少し悲しいかもしれませんね。
――歌詞の“叶うならばもう一度 もう一度君と巡り会いたい”という部分は聴いていてすごく切なくなりました。別れの悲しさもあるんだけど、繋がりを信じたいという部分も表現されていて。
RIRIKO 「Take Off!!」もそうなんですけど、最終的には自分も受け入れていくというイメージがあって。最後の行の“君が居なくても 僕が居なくても 二人は笑ってる この世界で”という歌詞も、ある意味すごく切ないんです。ふたりは笑ってるんですけど、それはお互いが全然別の場所にいるのが前提で、きっとそれぞれ全然違うことに対して笑ってるんですよね。「繋がってはいたものが壊れたとしても、ふたりが笑っているならいい、だから僕は歩いている」というイメージで。だから、この曲で描かれてるのが普通の恋人の別れなのか、『クジラ』のように死別なのかというのは、それこそ聴いてる人たちの主観に合わせて聴いていただけたらと思います。
――表題曲とカップリングの3曲で、新しい自分と今までの自分をちゃんとパッケージしたシングルになりましたね。
RIRIKO 本当にそうなんですよ。全曲の作詞作曲もさせていただいて、すごく良いスタートが切れたと思います。
――今後はどんなアーティストになりたいですか?
RIRIKO ライブをたくさんしていきたいので、フェスにも出演してどんどん大きな舞台にしていきたい、それでもっとたくさんの人たちに自分を見てもらいたいです。自分の曲を通していろんな人たちに会いたいですし、そこから活動の幅をもっと広げていって、ゆくゆくは海外でも活躍したいと思ってます。もちろんいろんな曲を書いて、アニメやドラマ、映画のタイアップもさせていただきたいとも思います。今回の『クジラ』のご縁のように、作品と一緒に曲が世に出て行くのは楽しいですし、いろんな自分のやりたいことに繋がるし、勉強にもなるので。
Interview & Text By 北野 創
TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』ED主題歌「ハシタイロ」rionos インタビューはこちら
●リリース情報
RIRIKOメジャーデビュー・シングル
TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』OP主題歌
「その未来へ」
10月25日発売
品番:LACM-14661
価格:¥1,200+税
<CD>
1.その未来へ
2.Take Off!!
3.時の砂
4.その未来へ(off vocal)
5.Take Off!!(off vocal)
6.時の砂(off vocal)
作詞・作曲:RIRIKO 編曲:原田アツシ(Dream Monster)
© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会
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