歌手デビューのきっかけは、梶浦由記のソロプロジェクト「FictionJunction」。以降、「原宿BJ Girls (Chix Chicks)」として活動するほか、サウンドクリエイターRevoが主宰する「Sound Horizon」への参加といった豊富な経験を糧に、2007年シングル「Brilliant World」でソロデビューした織田かおり。近年はその卓越した歌唱力で、ゲーム「AMNESIA」シリーズや「Gunslinger Stratos」などの主題歌を歌う。そんな彼女が今年7月には4枚目となるアルバム『Gift』をリリースした。彼女にとって2017年はソロデビュー10周年イヤーであり、その想いを込めたアルバム『Gift』を引っ提げて、10月6日にTSUTAYA O-WEST(東京・渋谷)でワンマンライブを行った。今まで以上に熱く歌い上げた様子をレポートする。
暗転の中、ステージの中央に現れた織田かおりがライトに照らされてライブがスタートする。アルバムジャケット同様、これまでのようなダークな色合いの衣裳とは異なり、全身無垢な純白衣裳だが、手にしたマイクに響かせる歌声はむしろ今まで以上にパワフル。それは、バックに従えたのがギター、ドラム、ベースのスリーピースという構成もあるだろう。ロックに「World’s End Syndrome」「無限のDYSTOPIA」を歌い、ファンのかけ声も最初から熱い。
挨拶となる最初のMCでは「アルバムの曲を全曲」さらに「10年前の曲もやります」と宣言。すると間髪入れず、印象的なストリングスのイントロが。2007年にリリースした記念すべき1stシングルのタイトル曲「Brilliant World」だ。次に披露した「PLACE」は2013年にリリースした1stアルバムのリード曲。織田は、ラストフレーズは会場に託して、ファンの声による「You’re My Place」で締めてみせると、続けてハイハットとホーンセクションのイントロが。盛り上がっているファンは脊髄反射の如く“Wow Wow Wow Woh”と揃ったかけ声を織田に向ける。「LOVE×∞ 2016」に続くホットな定番曲になるだろう「WORKING!!」でフロアは一気に熱を帯びた。
歌い終わると「日本はストレス社会で働き過ぎと言われているのに、働け働けっていう歌詞を書くというね」と笑いながらも、「みんなに声を出してもらいたくて」「この絵を、この声を、この表情を想像しながら曲を作っていたのでめちゃめちゃ嬉しかったです」と感情を吐露した。
だが、熱くさせるだけが織田のライブではない。「10月、この日にライブをやることがわかっていたので夏から秋にかけての風景を共有したいなってところから歌詞を書きはじめて」と話した「for you」。そして、同じくピアノをベースとした「星を繋いで」につなげ、ドラム色を利かせたアレンジながらもしっとりと聴かせる。
ここで一転、ロック色の強い「Theatrium」を。織田も「私が今まで歌ってきたロックの中で一番暗闇をさまよっている曲だと思います」と紹介しただけあって、3ピースだからこそ聴かせられる重々しいロックを表現してみせた。「バンドメンバーで生で音を鳴らすのと、CDで聴くのとでは違った楽曲の発見があったりすると思うんですよ。そこを楽しんでもらいたい。このメンバーで今日しかできない曲だったりアレンジだったり、いろいろやってみたいなと思っていて」。
するとアコースティックギターの弦をつま弾くイントロが流れてくる。「大人っぽい曲をたくさん聴いて育ってきたので、今日は特別にこういった編成でお届けしたい曲があります」という言葉のあと、「零れそうな月」のパフォーマンスが始まる。原曲ではピアノで奏でていたがアコギのシンプルなリフに変わり無骨に、その分歌声も生命力にあふれる。最後に伸びやかな声を見せつけるところもより心を打ち、大人の女性を見せつけてくれた。
ハイハットがカウントを刻むと、スパニッシュなリフ、リムショット、織田のスキャット。「mindscape.」だ。この日の編成からするとCD収録ver.に近い演奏と言えよう。だが、CDよりもはるかにグルーヴが効いている。続く曲のイントロで嬌声が上がった。同じくエキゾチックな「Addicted」。歌唱後、黄色い声援に対し、「どこを悩殺してんだ、私」と自嘲したが、本格的な四つ打ちナンバーは確かに「漢」らしい。
次のMCでバンドメンバーを紹介。
ここで挿入されたのは、「聴かせる曲」としてピアノで始まる「希望の彼方」、フロアタムの低音が響くアフリカンなリズムの「サバンナの疾風」、そして、ピアノとストリングスの静かな始まりから激しいドラムへとつながるイントロの「本気の嘘」へ。タイプの異なる2曲を聴かせてから、その両要素を兼ね備えた楽曲を置くような、聴き手を振り回しておきながら集束させるような、そんな楽曲構成は振り幅が大きく、歌い手職人である織田のライブならではと感じさせる。
3曲を歌い終わると、「本気の嘘」については「10年以上前に私がレコーディングしているので、今もなおこうして歌い続けていられているというのは、レコーディングしたままで終わらせていないということで、それは本当に嬉しいことですし、歌を聴いてくれる皆さんお一人おひとりがいるからできることなのでとても嬉しく思っています」と話した後、「サバンナの疾風」について「あの歌詞は、サバンナという限られた箱庭の中で織田かおりが今歌っている。その扉の向こうを開けて羽ばたいていく、というメッセージが込められたなるけさんからの10周年の実はGift」と。「本気の嘘」で出会ったなるけみちこと今もつながる絆のエピソードを私たちに教えてくれた。
ここであらためて今回のライブのコンセプトにも関わる話を織田が語りだす。
「過去を振り返ってみると今でも大事に大事にしているもの、私にとっては今日届けた曲もこれから制作していく曲も全部が織田かおりにとって宝物なんですね。与えてくれるのはいろんな作品や作曲家の方や作詞家の方と触れ合う中でいただく、私に対してのGiftだと思っているんです」
「どれひとつかけちゃいけないなってホントに思っていて、だから、新旧織り交ぜた曲を皆さんにお届けしたいなと思って」。
そして、3曲目の「10年前ソング」である「Calling」が。歌手活動の起点ともいえる梶浦由記が織田かおりのために書いた曲である。そこから「true colors」「GRASPS」「RUN-LIMIT」「LOVE×∞ 2016」を並べた。新曲も聴き込んできているだろうが、さすがに年数を経た既存曲のパワーで盛り上げ、本編を一気に締めようという考えだろうか。事実、「GRASPS」のサビでは織田自身がこれでもかというほどにキレのある腕振りを見せ、フロアも両手が千切れるほどに激しく振ってこたえた。ラストの「LOVE×∞ 2016」では人気の「にゃんにゃんダンス」でフロアが一体化。それ以外の曲でもかけ声やコールが常にO-WESTの天井を揺らし、怒涛の時間が過ぎる。
織田は「愛してるよー!」「Bye Bye」の言葉でステージを去るが、ファンからはすぐさま「織田っ」「かーおりっ」の声が。激しいラブコールに応えて登場した織田は、ライブTシャツにクラッシュデニム。ただし、Tシャツの裾には紐やフリル風の飾りが。そこで、ライブ当日に雨が降ったことはなく、ファンからは超がつく晴れ女と知られる織田は「なんで今日雨が降ったか知ってる?」と。Tシャツに飾りをつけるために夜なべして「慣れない裁縫をしたから」と話し、会場からは笑みがこぼれる。
ここで織田は、まだやっていないアルバム曲「Stole my heart」を聴かせるにあたって、ファンに「かおりお姉さんの振付レクチャーコーナー」を開催。人差し指と親指で(LOVEの)「L」字に形作ってから左右に振る(織田曰く「キラッキラッキラッ」あるいは「LOVEっLOVEっLOVEっ」のリズムで)、次に自分の前で両手を左右に振る「ワイパー」……などを実演してから「Stole my heart」に突入。歌っている間は「歌に集中」ということで織田からのリードはなかったが、ファンは見事にダンス。「ライブだったらここで一緒に手振りとかクラップとかしたら楽しいよねー」と言いながら作ったということで、織田はファンからたくさんの「君に恋をしてる」(ここの振付はライブ参加時に習得&体感してほしい)を受け取っていた。キュートな曲調の「Stole my heart」のあとは、織田が「Metamorphose」の一員として参加した際に歌った「Refrain」を。バースデーライブでも歌った、織田にとってひそかなお気に入り曲だ。
さらにここで、11/22にアコースティックライブアルバム『Kaori’s melody Acoustic LIVE vol.#3 “Valentine 2017”』をリリースすることを発表。これは、2017年2月12日に目黒・BLUES ALLEY JAPANで開催されたアコースティックライブを収録した1枚だ。さらには、Acoustic Live Tour「Kaori’s melody vol.#4」が来年東名阪にて開催されることもアナウンス。ファンに人気のアコースティックライブということで、男性の雄叫びや女性からはまたもや嬌声が。
ライブを思い描いてアルバムを制作し、そのアルバムを掲げた今回のライブで思い描いた景色が見られたという感謝の意を表す。
「めちゃくちゃ辛かったこともたくさんあったんですけど、今日のこの日のために、この日のことをずっとずっと思って過ごしてきたこの夏だったので、皆にも素敵なGiftとして還元できたらなと思います」
最後は、アルバム曲で唯一やっていない「Give it to you」を披露して会場に別れを告げた。この「Give it to you」にしても、イントロからCDよりもギターのカッティングが最高に決まっていたが、とにかく全曲で丹念なライブ用アレンジが施されていた。そこには、『Gift』のメイキング映像でも見せたように、織田が自らの意思を注入していることは想像に難くない。というのも、マニピュレータによってピアノやストリングスといった補完要素はあったものの、今回のライブは織田かおりというボーカリストと3ピースバンドで作り上げるというコンセプトが明確だった。スパニッシュであったりエキゾチックであったり、織田の楽曲には聴き慣れたアニソン・ゲーソンとは異なる空気感の楽曲が多いのもあるが、ドラムとベースは音数よりも重厚さを感じさせるリズムを刻み、ギターはカッティングやアコギでの指弾きが多かった。そうしてできるだけ要素をそぎ落として骨太な音作りに仕上げる一方で、メロディラインを奏でる楽器はない。つまり、楽器に頼らず、楽器を従えるボーカルを織田は自ら一手に引き受けた。「ライブ」を完成させるにあたって、自らをその位置に置いたのだろう。そしてそれは、冒頭にも述べたように梶浦由記やRevoといった稀代のコンポーザーと「仕事」を共にし(無論今でも絆はつながっている)、数々の仕事でもまれてきた織田かおりだから形作れたと感じられる。冒頭のMCで「最高の思い出、“Gift”をお届けできたらと思っております」と織田は宣言したが、面と向かってのおもてなしというよりは、「これがシンガー・織田かおりだ」という姿を見せ、歌で語ってみせたライブだった。この夜、雨を避けてぶらりと入った人がいたとしても織田の歌に聴き惚れたに違いない。
織田かおりというシンガーの、等身大の姿を見せつけられることができたのが何よりの「Gift」だった。迫っている次のアコースティックライブツアー、その後のライブが楽しみだ。
Text By 清水耕司(セブンデイズウォー)
「織田かおり 11th SOLO LIVE “Gift”」
2017年10月6日(金) @TSUTAYA O-WEST
<Set List>
M-01. overture〜World’s End Syndrome (Playstation®Vita用ソフト「7’scarlet」オープニングテーマ)
M-02. 無限のDYSTOPIA (iOS&Android用アプリ「宿星のディストピア」主題歌)
M-03. Brilliant World (ニンテンドーDS用ソフト「ルミナスアーク」主題歌)
M-04. PLACE
M-05. WORKING!!
M-06. for you
M-07. 星を繋いで (Playstation®Vita用ソフト「ノルン+ノネット アクト チューン」エンディングテーマ)
M-08. Theatrium (オトメイトレコード「Theatrium 虚像の庭」主題歌)
M-09. 零れそうな月 (Playstation®Vita用ソフト「7’scarlet」ユヅキ編エンディングテーマ)
M-10. mindscape.
M-11. Addicted
M-12. 希望の彼方 (Playstation®Vita用ソフト「Code:Realize 〜祝福の未来〜」エンディングテーマ2)
M-13. サバンナの疾風
M-14. 本気の嘘 (Playstation®Portable用ソフト「ワイルドアームズ クロスファイア」オープニングテーマ)
M-15. Calling (TVアニメ「バッカーノ!」エンディングテーマ)
M-16. true colors
M-17. GRASPS
M-18. RUN-LIMIT (オトメイトレコード「RUNLIMIT」主題歌)
M-19. LOVE×∞ 2016
—Encore—
EC-01. Stole my heart (オトメイトレコード「おとどけカレシ」主題歌)
EC-02. Refrain (Metamorphoseより)
EC-03. Give it to you
●リリース情報
Acoustic Live Album
『Kaori’s melody Acoustic LIVE vol.#3 “Valentine 2017”』
11月22日(水)発売
品番:KDSD-01007
価格:¥3,000+税
●ライブ情報
Acoustic Live Tour「Kaori’s melody vol.#4」
2018年初頭、東名阪にて開催決定!
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