REPORT
2017.10.10
声優・田村ゆかりのデビュー20周年を記念したライブ“20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2017 *Crescendo♡Carol*”が、2017年9月26日、27日に横浜アリーナで行われた。大規模なライブは2年3ヶ月ぶりで、現在のレーベル・Cana aria(カナリア)に移籍してから初のライブとなったが、数多くの“王国民(田村ゆかりファンのこと)”が詰めかけた。ライブ内容も従来通り彼女のカラーを全面に押し出したもので、“ゆかり王国”健在を見せつけた。今回の記事は初日である26日の模様をレポートする。
田村ゆかりは1997年に声優としてデビュー。当時の新人声優としては珍しく、ほぼ同時期にCDデビューも果たしている。そのため、今年2017年で20周年を迎えることになる。ちなみに、現在のライブへとつながる“田村ゆかり*ふぁーすとらいぶ~蒼空に揺れる蜜月の小舟。~”が行われたのは2003年のこと。あれから14年もの月日が流れている。
その後、レーベル移籍に伴い2017年6月に田村ゆかり所属音楽レーベル“Cana aria”が設立された。そういったことから、ファンクラブイベント以外の大規模なソロライブはこのところ開催されておらず、今回のライブは実に2年3ヶ月ぶりとなった。
そんな久しぶりのライブが、1万人以上収容の横浜アリーナという大舞台。しかも両日とも平日開催となったのだが、前日の事前物販ですでに長蛇の列ができていた模様。もちろん当日も会場に大勢の王国民が詰めかけていた。
1曲目は新曲の『Hello Again』だった。ゆかりんはダンサーたちと一緒に登場。ずっとゆかりんのライブを盛り上げてきた着ぐるみの“くすんだねこ”“くすんでないねこ”の姿もあった。この時点で、“ゆかり王国”の世界観が何も変わっていないことが理解できたのだった。
会場に集った王国民はピンクのサイリウムを振ってゆかりんを迎え、割れんばかりの“ゆかり”コールも起きた。この景色を見たゆかりんが感極まったのか歌の途中で声を詰まらせる場面もあった。
「えっと……最初はなんて言ったらいいんだっけ?」。
久しぶりの再会は、なんとなく気まずい感じがするもの。ゆかりんは照れ隠しなのか、たどたどしい口調で王国民にご挨拶をする。
「こんばんは。田村ゆかりです……か?」。
なぜ疑問形なのかはわからないが、だんだんいつもの調子を取り戻してきたゆかりん。
「女子の黄色い声とか聴きたいんだけど、その前に前座的に野太いおっさんの声を(笑)」と言うと、男性の王国民に「ウーパールーパー」、女性の王国民には「エリマキトカゲ」と叫ばせるコール&レスポンスを行った。横浜アリーナがまさかの『わくわく動物ランド』(※80~90年代に流行した関口宏司会の動物クイズ番組)となった瞬間だった。ゆかりんも自分でやってて「なんの集会なんだろう」と自問自答していた(笑)。
そんなこんなで話し出すと止まらなくなって十数分もMCが続いた後、4曲目「Luminous Party」を歌いだす。するとステージの一部が水平に移動。なんとお客さんの頭上を通って会場の最後尾まで移動するという仕掛けが用意されていた。ゆかりんを近くで見ることができて後方の席のファンも大喜びだ。
そのまま会場最後方で歌った「アンジュ・パッセ」ではまた2匹のねこが登場して、かわいらしいダンスを披露した。再びステージが前方に戻って、「エキセントリック・ラヴァー」では早替えで黒い衣装にチェンジ。これまでとは一転して激しい曲で、炎が上がる演出も見られた。
その後、場面転換の時にはゆかりんが主演の映像が流された。1つ目は「もしもゆかりんがクレープ屋さんだったら」というもので、ゆかりんがクレープ作りに挑戦。クレープに穴が空いたりしたものの、うまくごまかしておいしそうなクレープを完成させた。2つ目の映像は「もしもゆかりんが隣に引っ越してきたら」。アパートの隣の部屋に引っ越してきたゆかりんが、作りすぎたおでんを持ってきてくれたり、ベランダで下着を干していたりといった夢のようなシチュエーションを描いた映像で、コミカルなオチもついて幕間でも王国民を楽しませる工夫がされていたのだった。
再び登場して「心の扉」、「Lost Sequence」、「Masquerade kiss」と落ち着いた曲が続く。繊細な歌詞の表現力はさすがといったところ。そして11曲目、「勇気をください」はゆかりんのデビュー曲。しかもアコースティックバージョンで、20周年記念ライブにふさわしいスペシャルな選曲だった。
その後はまた映像が流された。今度はゆかりんが手作りでケーキを焼いてデコレーションするというもので、最後にマジパンに“20th Anniversary”と文字を入れて完成。会場からは大きな拍手が起きた。
続いて、「めろ~ん音頭~Festival of Kingdom~」でゆかりんはハッピを着て登場。 ステージはまた後方に移動して、お祭りのようににぎにぎしく盛り上がった。「Sewing My MODE」は『ガールフレンド(♪)』のキャラクターソングで、時谷小瑠璃(CV:田村ゆかり)として歌ったもの。キャラソンをセットリストに組み込んでも全く違和感なく、キュートに歌い上げるのはさすがといったところだ。
次の映像は「ゆかりんのリアル脱出ゲーム」というもので、地下牢に閉じ込められたゆかりんが謎を解きながら脱出を試みるという内容だったのだが、これも地下牢で朽ち果てて骸骨と化した王国民さんが登場するなど小ネタがたっぷりの映像だった。
そして映像が終わると“ゆかたん”こと“神楽坂ゆか”がゲストとしてステージに登場!ゆかたんはゆかりんのことを尊敬している後輩アイドルで、初めてゆかりんの“前座”としてステージに立ったのが、ここ横浜アリーナだった。久々に王国民の前に姿を現したゆかたんに、会場からは大きな歓声が沸き上がり、サイリウムの色はゆかたんのイメージカラーである青に統一された。……ちなみに、このゆかたんのギミックを知らない方はなんのこっちゃと思うかもしれないが、「ゆかたんが歌って踊るとなぜかゆかりんが疲れる」という仕組みになっているとだけお伝えしておこう。
ステージには“Yuka”と書かれたネオンサインが出現し、ダンサーはポンポンを持って登場。完全に昭和のアイドル番組の風情となった。
ゆかたんは「SUN SUN サマー Touch Me♡」など3曲を披露。水を飲むときにかかんで、思いっきりパンツが見える(そしてパンツには大きく“ゆかたん”と書かれている)というお約束も飛び出した。
ゆかたんがステージを去った後は、また映像が流された。今度はさまざまなシチュエーションのゆかりんが次々と現れ、好きなものをひと言ずつ言っていくというもの。今回のライブで流れた映像はどれも数分程度のものなのだが、おそらく相当な時間をかけて撮影していると思われ、映像でも手間を惜しまずにみんなを楽しませようという気持ちが伝わってきた。
そんな映像の後に歌ったのが「ゆかりはゆかり♡」という曲で、発売予定のミニアルバムに収録される新曲だ。もちろんライブでは初披露である。
その後には再び長いMCが繰り広げられた。ゆかりんはこの日リハーサルがあって何も食べられなかったらしく、ひどく空腹のご様子。そこで会場の王国民から物販で売られていた人形焼をもらって、バンドメンバーといっしょに食べ始めた。ただ人形焼を全部もらっては悪いので、人形焼は半分だけ食べて、箱にサインを入れて返すことに。そういうところがゆかりんの優しいところなのだが、サインを入れようにもステージにペンなどあるはずもなく、ペンも王国民から借りることに。ところがペンを借りると、ペンを貸してくれた人にもお礼をしなければいけなくなり、今度はサインを書くための紙をもらうのだが、紙をくれた人にもお礼が必要――という、よくわからないスパイラルに陥ってしまう(笑)。しかも、紙をくれた王国民はノートに詳細にライブの様子を書き留めている“メモラー”だったのだが、サインを入れるために名前を聞くと、その人はゆかりんのラジオ番組に古くから投稿している有名なハガキ職人“ボンネビルレコード”さんだったことが判明。会場からこの日いちばんの驚きの声が上がった。
さて、ライブはついに終盤戦。ここからはおなじみのアッパーな曲が続く。「ラブラブベイビーハッピースター」に続き、「fancy baby doll」では有名なコール「世界一かわいいよ!」が巻き起こった。このコールに「ありがと♡」と世界一のスマイルで返すところも含めて、ゆかりんライブの大きな山場といえよう。間奏では、ぬいぐるみを客席に投げ入れるのも恒例となっている。今回はトロッコで会場を一周してぬいぐるみをプレゼントしていた。
そしてもうひとつの名物はなんといっても「You&Me」のラップ。原曲でのmotsuによるものすごいワード数のラップを会場の王国民が声を合わせて再現するという、おなじみの光景が繰り広げられた。そして最後は「W:Wonder tale」で締めくくられたのだった。
統制のとれたアンコールの声に応えて再登場したゆかりんが歌ったのは、「チェルシーガール」。この曲は王国民による“口上”があることで知られている。
「世界で一番大好きな ゆかりにもっと恋したい!」。
きっと王国民のみんなは、2年3ヶ月も離れていてもずっとこの気持ちを持ち続けていたのだろう。そんな愛にあふれた声が会場に響き渡った。
アンコールでもゆかりんのMCは冴えわたり、「ライブの後の打ち上げでぼっちの人たちはどうすればいいか問題」について語った。そして打ち上げの場所を考え、Twitterでハッシュタグ“#ぼっち界のぼっち”でつぶやけばいいという提案までしてくれた。さすが、王国はぼっちに優しい。……そういえば、こうしてゆかりんが王国民とやりとりをしながら長い時間おしゃべりするというのも、“ふぁーすとらいぶ”のときから、たとえどんなに会場が広くなっても変わらないことのひとつだった。
久しぶりのゆかりんのライブは、これまでと変わらない世界観で、映像もセットリストも何もかもが王国民を楽しませるための工夫に満ちたものだった。この完成されたステージは、20年の積み重ねがなければ作れなかったものだろう。
アンコール最後の曲「Super Special Smiling Shy girl」は、王国民からは「だいすきゆかりん!」のコール、ゆかりんは「だいすきー!」と叫んで締めくくるという、お互いの「大好き」を確かめ合う曲だ。
ゆかりんがデビューして20年が経って、会場で見かける王国民のみなさんもちょっとずつ年を重ねて、ゆかりんもレーベルの移籍などで環境が変わったりもした。でも、ふぁーすとらいぶの時からずっと変わっていないのは、王国民がゆかりんを思う気持ち。この気持ちがあれば、ゆかり王国は永遠に続くことだろう。そんなことを改めて感じさせた今回のライブだった。
最後はいつものようにゆかりんがトロッコで会場をゆっくりと一周し、全ての王国民の笑顔を確かめるように手を振って、ライブ初日は幕を閉じたのだった。
Text By 金子光晴
Photography By 荒金大介、木村泰之、関口佳代
「20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2017 *Crescendo♡Carol*」
2017年9月26日(火)横浜アリーナ
<セットリスト>
01. Hello Again
02. 惑星のランデブー
03. 好きだって言えなくて
04. Luminous Party
05. アンジュ・パッセ
06. 100 CARAT HEART
07. エキセントリック・ラヴァー
08. 心の扉
09. Lost Sequence
10. Masquerade kiss
11. 勇気をください(アコースティック)
12. めろ~ん音頭~Festival of Kingdom~
13. Sewing My MODE
14. SUN SUN サマー Touch Me♡
15. ココナッツガールは誘われたい
16. 女豹
17. ゆかりはゆかり♡
18. ラブラブベイビーハッピースター
19. fancy baby doll
20. もうちょっとFall in Love
21. You & Me
22. Fantastic future
23. W:Wonder tale
<ENCORE>
24. チェルシーガール
25. この指とまれ
26. Super Special Smiling Shy girl
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