ソロ・デビューから10年という熟成期間を経て、シンガーとしてだけではなくミュージシャンとしても成長し続ける織田かおり。4thアルバムとなる今作では、職業作詞家として書いた2曲に加え、4曲の新曲でも作詞を担当している。今の彼女が聴く人に届けたい思いとは?
――初回盤に同梱のDVDに収録されている「Give it to you」のレコーディング・オフショット・ムービー。そちらでアルバムコンセプトを語られていましたね。
織田かおり 今回、「いろいろな作曲家さんが思う織田かおり」を入れ込んだアルバムにしよう、という話をまずさせてもらったんですよ。「それをCDというギフトボックスとして皆さんにお渡しするのが理想かもしれない」って。そこからタイトルも『Gift』に決まったんですけど、そういったコンセプトを聴く方に伝える場所ってなかなかなくて。それこそこういう場所くらいで。だから、「取材」って(自分とメディアが)一緒に作ったレビューみたいに思っているんですね。今回、オフショット・ムービーを撮ると決まったとき、「そういう形でファンの方にアルバムのコンセプトを伝えるのはいいかもしれないなぁ」って思ったんです。オフショットではレコーディング・メンバーに向けて話してますけど、皆さん、CDの私もライブの私も知っているっていうメンバーばかりなので、私がどういう思いで歌っているかはすでにご存知なんですよ。だから、あれは観る方に向けて語っているんです。だって、カメラに正面向かって(語る)、となるとビデオレターみたいで恥ずかしいじゃないですか(笑)。
――「織田かおり」をプロデュースするいろいろな作曲家、というのはご自身でセレクトされたんですか?
織田 そうですね。最初にお願いしたいと思ったのはなるけみちこさんでした。なぜかというと、なるけさんとは出会ってから10年くらいになるんですけど、音楽面での気持ちが通じ合うようなところがあるんです。次にお願いしたいと思ったのがmyuさんとMANYOさんでした。myuさんはここ最近私の曲を多く書いてくださっていますけど、引き出しと振り幅が毎回すごくて。なので、myuさんがまだ書いたことのない私の曲をお願いしたいと思いました。そこでお互いに考えたのが、今回のちょっと大人っぽい感じのミディアムバラードだったんです。それから、MANYOさんに関して言うと、最近全然お会いしてなかったので(笑)。
――ムービーでも言ってましたね(笑)。でも、リード曲をMANYOさんに、というのは決めていたんですか?
織田 いや、この方に、というのは意識してなかったです。誰かが今までにない織田かおりを作ってくれたら、という感覚で。ただ、なるけさんには振り切っていただいた方がいいかもしれないと思ってはいました。アルバムの中でいろいろ遊べるような曲の方が。myuさんとMANYOさんの曲はどちらも「Gift」として成立するんですよね。バラードをリード曲にしたことはないし。でも、大人になればなるほど、「クールじゃない織田かおりにスポットを当ててもいいのかな」とは思っていたんですよ。「もう(そうじゃなくても)よくない?」って。明るくて楽しい私がいるのも事実で。
――そこで、爽やかな織田かおりを。
織田 そうですね。だから、「Give it to you」はとにかくポジティブな私です。今までのような「マイナスなこともあるけど頑張ろう」ではなく、とにかくポジティブな曲になっています。ソロ・デビューして10年経って、その間にライブをして、アルバムを3枚出して、ようやくポジティブになれました(笑)。一方のなるけさんの「mindscape.」は、自分の足元が見えすぎちゃって怖い感じというか、そういうところを詰め込みました。だから、歌詞としては裏のリード曲というところがあると思います。
――歌詞をどうやって書いたかも教えてもらえますか?
織田 「Give it to you」は、バースデーライブを終えてから書きました。すごく早く書けましたね。
――それはライブの影響があったのでしょうか?
織田 ですね。すごくうれしいライブだったんですよね。そもそも誕生日を迎えられるってことは、大きく言ってしまえば、自分が1年間無事に生きてきたってことじゃないですか。大人になると、人の生き死にに直面することも増え、ひとつ歳を重ねられることがどんなに幸せなことか、毎年噛みしめるようになりました。「誕生日って祝ってもらう日じゃなくて感謝する日だな」ってだんだん思えるようになったんですよね。バンド・メンバーにもスタッフにもファンにも恵まれて、いつもひとりだと思っていたのに、前見ても横見ても後ろ見てもいっぱいいる、ってことを感じることができたライブでした。なので、ちょっと恥ずかしくても絶対ストレートに書くべきだと思って、ああいう歌詞になりました。
――ここはうまく書けた、っていうところはありましたか?
織田 サビの最後部分の英語をはめたときは気持ちよかった!(笑)。言いたいことと音符がマッチすることほど気持ちいいことはないですね。英語をしゃべれるわけではないので、「こういう響きを入れたい」ってところから単語を検索するので、まるで中学校の英語の勉強なんですよ(笑)。こんな感じの動詞とこんな名詞を、ってパズルみたいに組み合わせて。サッシャさん(日英独語を操るDJ・ナレーター)にすぐ連絡しては「助けて!」って言ってました(笑)。でも今回は、ほとんど直されなかったです。「全然問題ないよ」って言ってくれて。サビの“I’ll always-”や特に“you make me feel-”もはめたときに「よっしゃー!」って思いましたね。ロックに歌えると思ったので。言葉の響きを気にする感覚って歌う側だから敏感に感じる部分かもしれないですね。
――この音で伸ばしたいとか、ここにアクセント持ちたいからこの音で終わらせたいとか。
織田 そうそう。だから、はまると「気持ちいいー!」ってなるんです(笑)。
――「Give it to you」の次に作詞したのは「for you」ですか。
織田 myuさんが切なく仕上げてくれるだろうバラード、という期待があったのでラブソングっぽくしようと考えていました。ご存知のとおり、乙女ゲームの曲は幸せな恋愛の曲が多いんですけど、恋愛ってそこだけじゃないですよね。「この曲のっふたりが別れたら……」みたいなのも書いてみたくなるんですよ。パートナーと別れてしまった主人公が「今の私だったらこういうふうにしてあげられたのにな」というところをテーマに書きました。それなら私っぽい表現ができるかと思ったんです。あとは、今までにやったことがなかった、季節もテーマに取り入れています。夏から秋にかけての季節にスポットをあて、風景が単語から見えるように季節の言葉を入れました。
――織田さんが作詞された新曲のうち、「Give it to you」と「for you」以外でも「Gift」というテーマは意識されましたか?
織田 結果的には全部「Gift」になっちゃいましたね。「WORKING!!」は、ワンコーラスのデモ状態からタイトルが決まっていて、英語部分の歌詞もあがっていたんですけど、テーマはオフィスで働くキャリアウーマンである女上司なんですよ。想像するとたぶん、年齢は私よりちょっと上くらいなんじゃないかな。そんな主人公や、働くすべての人に向けた応援歌なんです。なので結果としてこれも「Gift」。厳しく接しているけど君を応援してるよ、という内容にしました。そういう世界を描く中で、自分自身に対しても応援歌になっていると思ったんです。だから2番で、“本当は強くないけど そんな自分を守るのは「プライド」なの”って言っているんですね。強いけど本当は強くない自分を出したい、という話はなるけさんと最初の段階でしていました。難しかったですよ、どうしたら言いすぎず言わなさすぎず、という。
――上司がよく抱く悩みですね(笑)。
織田 ほかにも実は、いろいろと具体的なことを書いているんです。リアルなOL感を出したかったので。終わったときはなるけさんとふたりでうるうるしながら、「できた……」「励まされるよ、この曲!」みたいになってました。「自分たちの応援歌を作ったみたいだね」って。
――では最後に作詞したのが「mindscape.」ですね。
織田 なるけさんは、私がツイッターでつぶやいた「ひとりは自由であり孤独だなぁと感じる」って言葉が気になったらしくて。私は明るくつぶやいたつもりだったんですけど(笑)、そこからこの曲が生まれました。忙しいなか、ギリギリになって「アルバムを作るならこの曲を入れたい!」って届いたんです。なるけさんから、「苦しいと思うんだけど自分で歌詞を書いたほうが絶対いいと思うんだよね」って言われたので、「どこまでできるか分からないですけどやってみます」ってお答えして、歌詞を書きました。なるけさんが思い描く織田かおり像があって、そのうえで自分が今まで歩んできた音楽や歌について書いた歌詞だったので、なかなかうまくまとまらなくて。歌入れをする当日の朝までメールでやりとりして、しかも「現場でもう1回確認させてください」って言って、パソコンを現場に持ち込んで作業しました。ほかの皆さんが気をつかってコントロールルームから出ていっていましたね(笑)。
――ふたりの力でどういう織田かおり像を描いたんですか?
織田 ひと言では言い表せないんですけど、若いときからこの仕事をやらせてもらっているんですが、辞めるのは簡単で、続けるのは難しくて。そうやって続けてきた自分をどこかで褒めてあげたいという気持ちがありました。じゃないと、報われない私がいると感じたんです。今までの私を救ってあげたかったんですね。明日からまた頑張るためにも。そう思えるように、なるけさんが導いてくれたと思います。
――サビにツイートした言葉が使われていますね。
織田 そこの伝え方には本当に苦労しました。
――曲順についてどういったコンセプトで?
織田 難しかったですね、今回はより振り幅が広くなったので。今までは、ロックの種類は違っても国は同じというか。例えば、「World’s End Syndrome」「Stole my heart」「無限のDYSTOPIA」「Thatrium」「RUN-LIMIT」「Give it to you」ってどれもロックパートなんですけど国が全然違う。
――それぞれ影響を受けたバンドが違う人が作った、みたいな?
織田 そうなんですよ。だから、いろいろと考えました。myuさんの曲が多いのでそのつながりとか、恋の歌をまとめるとか。ただ、「World’s End Syndrome」は1曲目しかありえないと思っていました。制作期間がすごく長く、レコーディングしたのもかなり前なのに全然色あせていないんですよね。そういう曲ってやっぱり、「今だったらこう歌うのにな」というのが出てくるんですけど、この曲ではそれがなかったんです。だから、1曲目だと確信しました。あと、「WORKING!!」は前の方に持って来て、早めに「今回のアルバムはちょっと毛色が違うぞ」と聴く人に気づいてほしかったんです(笑)
――今回、聴いてくださる方にどんな「Gift」ができたと思いますか?
織田 今の私にできる最大の贈り物ではありますが、そのうえで、私が一切着飾ることなく、リアルな自分ができることをやった結果になったと思います。今までのアルバムではきっと、背伸びすることの良さも出せたと思うんですけど、今回は背伸びする必要性を感じませんでした。等身大の自分が音楽を突き詰めたアルバムになったんじゃないかな。
――オフショット・ムービーを見ても、シンガーではなく、ミュージシャンとしての顔も見せていました。
織田 すごく自由にやらせてもらいながら、クリエイティブな面にもしっかり関わらせてもらえたので、ソロシンガーとしての地盤がしっかりできた、という実感もあります。
――そうやって作り込みながらも、着飾って手渡しする贈り物ではなく、「ちょっと聴いてみてよ」みたいな感じのプレゼントなんですね。
織田 そう!気さくに。ドライブにも向いていると思うんですよ。
Interview&Text By 清水耕司(セブンデイズウォー)
●リリース情報
4thアルバム
『Gift』
7月26日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
品番:KDSD-00997-00998
価格:¥3,800+税
【通常盤(CD)】
品番:KDSD-00999
価格:¥3,000+税
<CD>
01. World’s End Syndrome(PlayStation®Vita用ゲームソフト「7’scarlet」オープニングテーマ)
02. WORKING!!
03. Stole my heart(オトメイトレコード「おとどけカレシ」主題歌)
04. for you
05. 零れそうな月(PlayStation®Vita用ゲームソフト「7’scarlet」ユヅキ編エンディングテーマ)
06. 無限のDYSTOPIA(iOS & Android用アプリ「宿星のディストピア」主題歌)
07. Theatrium(オトメイトレコード「Theatrium 虚像の庭」主題歌)
08. RUN-LIMIT(オトメイトレコード「RUNLIMIT」主題歌)
09. mindscape.
10. 希望の彼方へ(PlayStation®Vita用ゲームソフト「Code:Realize ~祝福の未来~」エンディングテーマ2)
11. サバンナの疾風
12. 星を繋いで(PlayStation .A N.Vita用ゲームソフト「ノルン+ノネット アクト チューン」エンディングテーマ)
13. Give it to you
<DVD>
01.Give it to you(Music Clip)
02.World’s End Syndrome(PlayStation®Vita用ゲームソフト「7’scarlet」オープニングムービー)
03.レコーディングオフショットムービー
04.撮影オフショットムービー
●ライブ情報
「織田かおり 11th SOLO LIVE “Gift”」
10月6日(金) 開場 18:00/開演 19:00
会場 TSUTAYA O-WEST
料金:¥5,000(税込)※整理番号付 スタンディング
※未就学児童不可。小学生以上チケット必要。※別途ドリンク代必要
チケット一般発売日 2017年9月2日(土)各プレイガイドにて
※ニューアルバム「Gift」にチケット先行予約のお知らせが封入されます
SHARE