デビュー5周年のアニバーサリーイヤーを豪華企画と共に駆け抜けた羽多野渉が自身の音楽活動の6年目へと踏み出したその一歩となるシングル「ハートシグナル」を完成させた。前作「You Only Live Once」でタッグを組んだ彦田元気の作曲・編曲となる今作は作詞に元スケボーキングのshigeoを迎えての新境地となるポップチューン。今作について、そして6年目への意気込みを聞いた。
――先日までアーティストデビュー5周年のアニバーサリーイヤーを駆けていらした羽多野さん。色濃い時間だったのではないかと感じますがいかがでしたか?
羽多野 渉 本当にいろんなことにチャレンジさせていただきましたし、一つひとつのプロジェクトがありがたいものばかりで印象に残っています。ライブツアーもそうですし、アルバムも初めて自分でコンセプトを考えて、自分で楽曲を発注して。こんなに最初の、ゼロの時点から関わるというのは初めてのことで、そういう意味でも自分の中では印象深いミニアルバムになりましたし、本当に一個一個が印象的でしたね。ライブツアーも思い出深いものになりましたし、音楽と色濃く結びついた一年になりました。アーティストブックも発売させていただいたんですが、そのときには改めてお世話になった方たちとの対談もさせていただきましたし、ロングインタビューもやらせていただいたんですけど、そういうなかで自分の主観だけではなく周りの人たちから見た「羽多野 渉ってどんな人なんだろう」という話が聞けたりだとかですね、いろんな角度から自分の5年間の音楽活動を振り返ることができて、すごく印象的でした。本当に全てのプロジェクトがありがたいものでした。
――色濃いものを作って来た一年。そこで完成させたミニアルバム『キャラバンはフィリアを奏でる』で時空を旅した羽多野さんですが、それほどの想いを込めた作品を作った後となると、どんな作品を作るか悩みそうなイメージがあります。どのような作品を、と考えていらしたんでしょうか。
羽多野 何かひとつ事を成し遂げたさらにその次ともなると、少し不安だったり、「あれを超えていかなければ」といろいろと考えちゃうことも多いと思うんですけど、去年「You Only Live Once」という楽曲を歌わせていただいて、そのときにいろんな発見があったんです。例えば自分の声を加工して歌うこと。ほかの役者仲間もびっくりしていたんですね。「加工しちゃうんだ?」って。でも僕の中では特別なことではなくて。そもそも声優というのは素材だと思っているんです。すべてを自分ひとりでする職業ではなく、自分の声を使ってどんな表現ができるか。音楽への向き合い方、というのがひとつ、固まったな、というのを5年間やって感じてきていたので、そういった楽曲に携わらせてもらって、ミニアルバムを作らせてもらって、その次となるともうワクワクしかないというか。これが出来るならあれもやれるんじゃないか、これもいいんじゃないか、という具体的ではないとは言え、アイデアが湧いてきて。もっともっと自分の可能性を拡げてもいいんじゃないかなんてことを思いましたし、もしも次にまたやらせてもらえるとすれば、新しい世界を見せてくれた彦田元気さんと一緒にやりたいなぁ、なんて思っていたら、今回もご一緒させてもらえることになったんです。こんなに早くかなうと思っていなかったら、すごくうれしかったですね。
――彦田さんによって拡げられたものが大きかったということですか?
羽多野 そうですね。音楽的な、いわゆるJ-POPの形式というのがあるとすれば、僕の楽曲はその形に則ったものが多いんですが、彦田さんの楽曲ってそういう法則にとらわれていないというか。どこを聴いてもサビに聴こえるようなキャッチーさがあるというか。未来的なサウンドだなって最初に思ったんですよね。面白いなというのが率直な感想というか印象というか。音楽に限らずではあるんですが、「これはこうじゃなければいけない」という固定概念みたいなものを自分の中に勝手に作ってしまっていないかな、ということを思っていたときに改めて音を楽しむ、という原点に戻ったときに出会えたのが「You Only Live Once」でした。ご本人がライブに来てくださったときに「また一緒にやりましょうね」とお話もしていたんですけど、まさかすぐにできるなんて思ってもいなかったです。
――驚きと喜びと。
羽多野 そうですね。次のシングルはアニメのタイアップということでもあったので、僕自身が「こんな曲をやりたい」と思っていたとしても、それが作品サイドが求めるものになるとは限らないんですよね。でもそんな中で元気さんが僕が歌うイメージで曲を作ってくださったことが本当にうれしかったです。
――その「ハートシグナル」ですが、聴かれたときはどのような印象でしたか?
羽多野 めちゃめちゃかわいいなと思いましたね。「You Only Live Once」のときはすごくカッコよくておしゃれだなっていうのがあったんですが、今回はおしゃれなんだけどもキラキラしていて非常にかわいいなって思ってしまって。一瞬、かわいい女の子が歌ったらもっとかわいい歌になるんじゃないかなっていう邪念は浮かびましたけど(笑)。でもそれを自分が歌うんだな、と思ってからは、楽曲自体はキラキラしていて軽やかでポップでキャッチーでっていう曲で、僕の、やや低めの倍音成分の多いボーカルがどんなふうに混じるんだろうな、というワクワク感を覚えました。
――この曲を最初に聴いたときに「ここがいい!」と感じた部分はどこでしたか?初期衝動としてどんな部分に惹かれたのかを教えてください。
羽多野 Dメロですね。ものすごい螺旋階段をずっと駆け上がった先に、バーッと景色が広がるようなところが面白いな、と感じたんです。元気さんの楽曲って、音だし、音楽なんだけど、目をつぶると景色が浮かんで来るような、可視化出来るような楽曲な気がして。今回も本当に立体的な曲だなと感じました。
――そんな曲を歌っているときはどんなことを意識していたんでしょうか。
羽多野 一瞬、その景色を忘れるくらいに苦戦しました。
――え?
羽多野 レコーディングはもうとにかく苦戦しました。毎回思うんですけど、レコーディングのたびにへこむんですよ。こんなにいい曲を書いてもらって、こんなにおしゃれな歌詞に仕上げてもらっているのに、どうしよう!って。自分の想像の中での楽曲の完成形に辿り着きたいのに、そこへ届かない自分。先日アーティストBOOKでもその話をしているんですが、それは曲を作る側も同じだ、と言われたんです。みんな、戦っている。それが心強いな、とも感じたんです。作曲家さんは、どういう曲を出したら、要望に応えられるかな、と思うし、歌う側はどうしたら作曲家さんがイメージしたものに近づけるだろうかと思うし。そういうのをちょっとずつ、ちょっとずつ、力を合せながらやっていくという作業だったんです。本当に心強かったのは、「ハートシグナル」のレコーディングでは作詞をされたshigeoさんも来てくださったんです。今回の歌詞は元スケボーキングのshigeoさんならではの韻の踏み方があって。そのまま日本語の歌詞として自分の中に落とし込んで歌唱しても、うまく韻が踏めなかったりだとか、リズムがうまく合わなかったりが多いんですけど、その中で工夫するコツを教えていただいたんですね。「日本語だけど英語のような気持ちで歌ってごらん?」とか「韻が踏んである母音を意識して強く出してごらん?」とか。本当に小さなアドバイスなんですが、それをそのままやってみたらうまくはまって。「これは面白い」と。また新たな世界を知れたというか、とても勉強になりました。声優なので、言葉をはっきり伝えないと歌詞に失礼なんじゃないかと思ってしまうんですよね。言ってることがわからなかったら歌詞に申し訳がないと思ってしまうんです。でも作詞家さんからそうやって言ってもらうことで、自信を持って、韻を踏む、という表現に挑戦できたのが良かったですね。
――独特の言い回し、多いですしね。
羽多野 多いですよね。最初、デモを聴いたときにはまったくわからなかったですから。それを歌詞を見て「へぇ~!」って驚きがあって。面白かったですね。でもちゃんと作品を捉えた、モジモジ感だったり、すれ違う感じや好きな人に対してどう近づいたらいいのか、とか。そんな切なさみたいなものも歌詞の中には入っていますよね。
――この曲からは、羽多野さんからのどんな「シグナル」が届いていますか?
羽多野 あはは(笑)。そうですね、とにかく前向きなメッセージにしたいなと思っていました。曲は前向きなのに自分の歌声が前向きでなかったら嫌だなと思って、常に広い世界を想像しながら歌って。原作自体は家の中のシーンが多いイメージもあると思うんですが、この曲に関しては逆に開放的に、パーッと外に出ていくようなイメージで歌わせて頂いたので、そのシグナルが伝わっていたらうれしいですね。
――そんなこちらの曲はアニメ『ひとりじめマイヒーロー』のOPテーマとなっています。この曲はアニメにどのように作用すると思われますか?
羽多野 うまくアニメの世界と、現実のリアルな世界の、架け橋みたいになったらいいなと思っています。スムーズに作品の世界に、康介と勢多川、、支倉と健介の2組の恋模様に。やきもきすると思うんですが、そんな2組が織りなす物語に、テレビの向うから手を差し伸べてくれるくらいの感覚になれたらうれしいですね。
――そしてこの曲のMVもまた爽やかで明るい映像作品となっています。こちらの撮影はいかがでしたか?
羽多野 撮影日は晴れたので、すごくいい光でした。全編屋内ロケですが、屋内で自然光を使っての撮影だったので、本当に晴れて良かったです。家の中というミニマムな世界観でありながらいろいろなことを監督さんが考えてくださって。ダンスもしていますし、MVもひとつの作品として楽しんでいただきたいです。大サビでのダンスはかわいらしい振りなんですが、そちらも観ていただきたいですし、MVのストーリーも楽しんでいただきたいですね。
――そしてカップリング「Braver.」はガラリと雰囲気を変えたロックナンバーです。
羽多野 キャラクターソングなどで歌う、魂の咆哮、というようなロックではなく、爽やかな若者の青春を感じるような、ちょっと青い感じのロックにしたいなと思って歌いました。なので、自分の歌い癖でうたうというよりかは、歌詞が伝わるような歌い方を心がけましたね。楽曲はfu-moさんにお願いしました。夏のリリースなので「夏を感じさせる楽曲がいいですね」なんてお話をしていたんですが、バンドサウンドで、なおかつラップというかリズミカルに歌うシーンを入れてくださっていたり、面白い一曲になったなと思います。ライブで一緒に盛り上がりたい曲ですね。
――聴きどころは?
羽多野 早口でラップするところがあるんですが、声優だからですかね、はっきりと日本語が聴き取れるところですね。
――そんな2曲を収録したシングルを出した直後には“おれサマー”への出演が決まっています。そのライブへの意気込みをお願いします。
羽多野 本当に、ありがたいなと思います。まず“おれパラ”の、記念すべき10周年ということで、今までの出演者に声をかけてくださったということで、大先輩と一緒に出演させていただくのもなかなかない機会なので、感謝をしたいです。来ていただいた方と“おれサマー”のステージを楽しめるように、一生懸命歌わせていただきます!あと、僕自身、夏に野外ライブに出演というのは初めてなので、何が起きるかわからないぞ、と。なにぶん肌も青白いものですから、ちょっとくらい日焼けして帰りたいという気持ちもあります。ぜひ楽しいステージを、みんなで一緒に感じたいと思っています。
――そして5周年の先。ここからの6年目、さらにその先の目標を教えてください。
羽多野 毎年、言ってますが、6年目も7年目も、またこうして取材に応えられるように頑張っていきたいと思っています。またみなさんに、羽多野の歌を聴きたいな、と思ってもらえるように、この「ハートシグナル」を届けていきたいと思っています。
――最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
羽多野 これを読んでくださっている方が、僕の歌を聴いてくださっているおかげでこういった活動をさせていただけています。役者という立場でもこうして音楽と向き合うことができる、本当に幸せな時間をいただいているな、と思っています。一曲でも多くの楽曲をみなさんにお届けできるように頑張って行きます。そしてシングル「ハートシグナル」、そしてアニメ「ひとりじめマイヒーロー」もよろしくお願い致します。
Interview&Text By えびさわなち
●リリース情報
TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』OPテーマ
「ハートシグナル」
7月12日発売
<CD>
1.ハートシグナル(TVアニメ「ひとりじめマイヒーロー」オープニングテーマ)
作詞:shigeo 作曲・編曲:彦田元気
2. Braver.
作詞・作曲・編曲:fu_mou
3.ハートシグナル(Instrumental)
4. Braver.(Instrumental)
<DVD>
ハートシグナル Music Clip
●作品情報
TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』
7月よりAT-X&TOKYO MX&BS日テレにて放送中
【STAFF】
原作:ありいめめこ(月刊「gateau」連載/一迅社)
監督:ひいろゆきな
シリーズ構成:なるせゆうせい
キャラクターデザイン・総作画監督:西野文那
アニメーション制作:エンカレッジフィルムズ
【CAST】
大柴康介:前野智昭
勢多川正広:増田俊樹
支倉麻也:立花慎之介
大柴健介:松岡禎丞
山部 剛:安達勇人
福重 満:山下大輝
吉田次郎:山下誠一郎
夏生:羽多野渉
宝城常人:近藤孝行 ほか
©ありいめめこ・一迅社/「ひとりじめマイヒーロー」製作委員会
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