REPORT
2017.05.30
そして今回、不思議な立ち位置に感じられたのが髙野麻美だ。今回のセットリストでは髙野にはソロ曲や、フレデリカが主役!という感じのユニット曲はなかったのだが、彼女は元は自分の持ち歌ではない複数人数曲の中のワンフレーズで、「フレデリカらしさ」を濃厚に感じさせ、楽曲に新しい色合いや魅力を与えることがとてもうまいのである。「Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~」の髙野はフゥーっと息を抜く一音がもうどうしようもなくフレデリカだし、妖しくとろけるような、でもどこかコミカルな「アン・ドゥ・トロワ」の響きはフランス人ハーフのフレデリカのために用意されていたとしか思えなくなってくる。髙野と大坪の相性の良い歌声は、ちょっと怖くて妖しいライブでのフルサイズ「Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~」の大きな柱になっていた。もっともこの曲は、主役しかいないと思えるほど見どころの多い曲でもあったのだが。
加えて髙野はMCでの他メンバーの言葉のひとつひとつに対するリアクションや、細々とした動きの数々も印象的。初日はご当地にちなんだ石川県クイズが行なわれたのだが、北陸限定の有名なアイスは何かを出題された髙野が「ルマンドアイス!」と得意満面で答えたあと、出題者の青木が「……はルマンドアイスですが、飯田氏が好きなアイスは?」と続けたときの髙野の世界が終わったような表情と、解答を外しながらもどん欲に生麩まんじゅうをおごってもらおうとする姿はこのコーナーのハイライトだった。
今回はスクリーン映像を活かした演出について多く言及したが、実はもっとも効果的にステージ映像が運用されていたのは、飯田・洲崎・長島が歌った「Nocturne」、そして牧野・大坪・飯田が歌った「あいくるしい」のトリオ曲だったと思う。
「Nocturne」では、センターに飯田、上手と下手の両サイドに洲崎と長島が陣取る時間が長かった。この曲では洲崎と長島が素晴らしく躍動し、輝いて感じられたが、それを裏打ちしていたのはセンター・飯田の存在感だったと思う。後編で言及する予定の「Hotel Moonside」でも感じたことだが、攻撃的な楽曲のど真ん中に自身の立ち位置を定めた時の飯田の存在には絶対的なものがあり、『シンデレラガールズ』のエースになりうる可能性を感じる。そんな飯田がセンターに構えていれば、それだけで場が持ってステージが成立する。その信頼があるからこそ、両サイドの洲崎と長島が思い切った「動」のパフォーマンスを見せられたのだと思う。
今回の「Nocturne」はスタンドマイク風の足つきマイクを振り回すライブ感を重視して、決まった振付のないフリームーブの時間が非常に長かった。そのために洲崎はダンサーたちに、かっこよく決まるちょっとした動きのコツを教えてもらったとのことで、屈んだ状態から身を起こす時に全身を波打たせる動きはどこか妖艶で確かに印象的だ。マイクを振り回しながら客席を射抜くような長島の眼差しは、今までの上条春菜にはない新しい表現だった。長島は「生存本能ヴァルキュリア」のステージングもハッとするほど印象的で、金子と彼女が並んだときの存在の華やかさには時に目を奪われるほどだった。
そして、あっと思わされたのがステージセンターの大スクリーン、上手下手二面の中スクリーンの使い方だ(センターにはさらに二面の縦長のサブスクリーンがある)。それぞれのスクリーンに対応する位置で3人が踊っている姿をイメージしてほしい。本来、どれだけ印象的なパフォーマンスを見せていても、端にいる観客は自分と反対側のサイドにいる演者のパフォーマンスは視認しにくい。だからこそ、どの座席からも視認しやすいセンターは特別な場所なのだ。だが「Nocturne」では、実際の立ち位置と、各人の背後のスクリーンに映る映像を敢えてリンクさせない場面が目立った。たとえば洲崎が上手のステージ端でパフォーマンスしているときに彼女の見せ場が来ると、センタースクリーンに洲崎の姿が映る。あるいは三面のスクリーンが全て洲崎を追ったりする。だが次の瞬間には映像の主役は、下手のステージ端にいる長島にスイッチ。実際の立ち位置と関係なく、真ん中のスクリーンに、あるいは全面にどんと映像が登場したアイドルがその場面の主役になるのである。客席がスクリーンを見る時間が長くなる会場なら、スクリーンの映像をさらに効果的に使う演出をする。逆転の発想だった。
そして演出の妙を強く感じたのが、牧野・大坪・飯田が歌った「あいくるしい」だった。原曲は佐久間まゆ(牧野由依)と小早川紗枝(立花理香)の想いと個性がせめぎあうようなデュエットだったが、今回のライブでは3人を頂点とした不安定な三角形の関係性が描かれた。
この曲はキャストたちの間で劇団「あいくるしい」と呼ばれていて、意図を込めた歩き方でも表現しようと意図されていたそうだ。最初3人は、大坪と牧野が座り、飯田が立った状態で舞台上手に登場。やがて3人が立ち上がって下手に向けて歩き始めるのだが、いちばん大きな足取りでまっすぐ歩く牧野、それより少し小さな足取りでステージを高いところに向かって歩いて行く大坪、いちばん動きが少なくステージを下へ降りていく飯田が同時に動くと、自然に客席の目線は先頭をまっすぐに歩き、動きの大きな牧野に向かう。動き方、歩き方でステージの主役を暗示するのは、ライブというよりは演劇的な表現だろう。
歩き方が違うということは、3人の立ち位置が描く三角形は刻一刻と変化する。そしてあっと思わされたのは、3人のうち2人が直線に並ぶ先にライブカメラがきちんと待っていて、しかもカメラの被写界深度が浅く設定されていたこと。背景がボケた一眼レフカメラのポートレートをイメージしてほしい、被写界深度が浅い設定のカメラで被写体を撮ると、ピントがあっている面以外がボケる。すると、スクリーン映像の中では牧野と大坪が隣り合っているかのように(実際は大坪はかなり奥にいる)見えるのに、牧野にフォーカスすると大坪がぼんやりぼやけ、大坪にフォーカスすると牧野の姿がぼやける。ちなみに2日目はカメラ位置をずらして、飯田の奥に大坪が霞む姿が印象的なカメラワークだった。
そして2日目、牧野がぽろっと言った「絶対視線がまじわらないんですよ」の一言で、さらに演出意図がクリアになった気がする。3人は同じ方角を向いて、違った足取りで歩みながら同じ「あい」の歌を歌っているのに、三角形の形が刻々と変化しても彼女たちの目線や想いが交わったり、ふれあったりすることはない。セットの高さやカメラ位置、彼女たちの足取りなどを全て計算した上で、劇団あいくるしいが描く哀しくも美しい三角形のドラマを、リアルタイムの映像作品としてステージ上に創り出したのだと個人的には理解したのだが、どうだろうか。
最後に語りたいのは、地元石川県出身、洲崎 綾のことだ。彼女にとって初めての地元凱旋公演で、洲崎はソロ曲「ヴィーナスシンドローム」を大会場ライブでは「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 1stLIVE WONDERFUL M@GIC!!」以来披露した。ファーストライブとの印象の違いは、パフォーマンスの指向性だ。180度を客席に包まれていたアンフィシアターとは違い、石川の客席は前方のグラウンドレベルのみ。背後からの照明に照らされて、正面に向けてまっすぐにまっすぐに届く、逆光の中流星が飛翔するようにいさぎよく美しいステージング。正面から見ていると、会場の後方にも関わらずその表現力と想いの強さに射抜かれる思いだった。
MCでは普段の洲崎らしい楽しさを前面に出して、「女神?私のこと?」などと会場を笑わせていた洲崎だったが、それでも笑いにはできない、しない大切な想いがMCの端々から垣間見えた。ひとつは洲崎が新田美波という少女を女神のような女の子だと心の底から信じていること。彼女自身がそう信じているこそ、彼女の表現は新田美波そのものとして客席に届くのだと思う。そしてもうひとつは、家族も見守る石川のライブ会場へと洲崎を連れてきてくれた、作品と、美波と、プロデューサーたちに対する深い深い感謝の気持ちだった。
ライブの最後の挨拶、初日の洲崎は本編ラストの「夕映えプレゼント」の歌詞になぞらえて、地元で実現した夢みたいにきれいで泣ける景色の美しさを語った。2日目の洲崎は、アンコールの「M@GIC☆」の歌詞にある「だってシンデレラはがんばりや、でしょ?」のフレーズにふれると、「今なら私頑張ったでしょって言ってもいいのではと思います」と、仲間たちと自分の頑張りを誇りと感謝とともに認めていたのだった。
内なるシンデレラに願いをかけて、いつか夢を叶える魔法の物語。アイドルの数だけある物語のひとつが、確かに報われた瞬間だった。(後編に続く)
Text by 中里キリ
「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!」石川公演初日セットリスト
2017.05.27 石川県産業展示館・4号館
M01:Yes! Party Time!!(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
M02:エヴリデイドリーム(牧野由依)
M03:恋のHamburg♪(種﨑敦美)
M04:青空リレーション(金子有希)
M05:私色ギフト(髙野麻美、花守ゆみり、春瀬なつみ、高橋花林)
M06:おかしな国のおかし屋さん(大坪由佳 ゲストプリンスパフォーマンス:飯田友子)
M07:空と風と恋のワルツ(津田美波)
M08:ヴィーナスシンドローム(洲崎綾)
M09:あいくるしい(牧野由依、大坪由佳、飯田友子)
M10:絶対特権主張しますっ!(金子有希、安野希世乃、原優子、春瀬なつみ、花守ゆみり)
M11:オルゴールの小箱(高橋花林、洲崎綾、青木瑠璃子、飯田友子、長島光那)
M12:キラッ!満開スマイル(大坪由佳、髙野麻美、種﨑敦美、津田美波、牧野由依)
M13:Star!!(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
M14:Sparkling Girl(青木瑠璃子)
M15:Rockin’ Emotion(安野希世乃、原優子)
M16:Hotel Moonside(飯田友子)
M17:Jet to the Future(青木瑠璃子、安野希世乃)
M18:Love∞Destiny(牧野由依、青木瑠璃子、津田美波、金子有希、花守ゆみり)
M19:Nocturne(飯田友子、洲崎綾、長島光那)
M20:Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~(大坪由佳、高橋花林、髙野麻美、種﨑敦美、花守ゆみり)
M21:生存本能ヴァルキュリア(洲崎綾、金子有希、長島光那、原優子、春瀬なつみ)
M22:夕映えプレゼント(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
-ENCORE-
EC01:M@GIC☆(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
EC02:お願い!シンデレラ(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
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(C)BNEI/PROJECT CINDERELLA
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