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INTERVIEW

2017.04.12

1st Album『eYe’s』発売記念〜MYTH & ROID ”虹色の目の化石”をめぐる物語〜 第6回

アルバムリリース記念インタビューの第6回はボーカルのKIHOWも迎え、アルバムのリード楽曲「TRAGEDY:ETERNITY」についてお送りする。
「感情の最果て」をテーマに独自の楽曲を生み出してきたMYTH & ROID。だが、1stアルバム『eYe’s』を象徴するリード楽曲は、そのテーマとは異なる場所から誕生した?むしろこの楽曲からMYTH & ROIDという孤高の物語は始まったのかもしれない。
前衛的で最新鋭の音楽を目指したTom-H@ckが生み出した「TRAGEDY:ETERNITY」、それは究極の“ラブソング”だった。

――リード曲の「TRAGEDY:ETERNITY」で表現したかったことについて教えてもらえますか?

Tom-H@ck この曲で表現しているのは、究極のテーマである「愛」です。アルバム『eYe’s』を作るにあたっては、小説を一本執筆していて、ものすごく愛しているがゆえに愛する女性を石にしてしまった、という物語なんですけど、いわば「STYX HELIX」も「Paradisus-Paradoxum」も、MYTH & ROIDが作った曲ってその物語のひとつなんです。その中でもリード楽曲では、愛する人を石にするなんて間違っているかもしれないけど、悲劇の愛の究極の形として表現しました。

――とすると、この楽曲はhotaruさんきっかけで生まれたんですか?

Tom-H@ck いや、実は「TRAGEDY:ETERNITY」は楽曲が先にあったんです。といっても、適当につけた仮歌詞のままで録ったものでしたけど。いつ作ったかというと「L.L.L.」でデビューする前ですね。そのときとはサビが違っていて、さらにマニアックでした。

――最初に作ったときはどういう意図で書いたんですか?

Tom-H@ck ただただ前衛的なものがやりたかった、それですね。最新鋭のものをやりたかったんです。幾何学模様にイメージが照らし合わせられるような、なんかロックなんだけどデジタル感があってメロディも聴いたことないような、っていうね。MYTH & ROIDとしてそういう楽曲でデビューしたい、という意欲があったというのも理由でした。この楽曲がMYTH & ROIDのコンセプトとどうつながるのか、ってことはその時点では全く考えていなかったです。MYTH & ROIDというバンドをやりたいというプレゼンで、どれぐらい強いインパクトを与えられるかを考えて作ったので。

――ということはこの曲をKADOKAWAのプロデューサーに聴かせたんですね。それで気に入ってもらえて、MYTH & ROIDというユニットの実現に至ったんですか?

Tom-H@ck いや、この曲は気に入ってもらえなかったんです。プロデューサーからは「こうした方がいいよ」という長文メールをもらいました(笑)。グループ会社のF.M.Fの社長からは、「久しぶりに芸術的なお前の音楽を聴いたよ」とは言ってもらえたんですけど、「やっぱり商業として考えるとね」という話もしました。今よりもっとマニアックなサビが付いていましたからね。

――それでもこの曲を埋もれさせる気はなかった?

Tom-H@ck アルバムを出すと決まったとき、この曲をリード楽曲にしようと考えたんです。それは、MYTH & ROIDの認知度が上がってきた今出さずにいつ出す、と思ったからなんですよ。そういう後ろ盾がないと出せない曲なんですね。全くヒットの法則から外れている曲なんです。あと、超絶気に入っていた部分がありました。めっちゃ静かにウィスパーボイスで始まって途中で爆発させる、というところなんですけど。これって、B’zの「calling」なんかが典型ですけど、強制的に場面が変わっていくという流れに乗せる手段なんです。ヒットの法則のひとつですね。でも、ヒットさせる要素なんてこれだけですよ。コードもそうです。ギターって実はコード楽曲としては弱くて、ギターをジャランと鳴らしたその上でボーカルを響かせても足らない。そこにシンセサイザーの和音を加えるとかストリングスで飾りつけするとかで補ってやらないといけないんです。そうやってコード感を強くした中で一本のメロディが立っている、というのがヒット曲になるんですけど、それも一切やっていないんですね。

――以前に作った際はもっとマニアックなサビが付いていたのを、アルバム用に直したということですが。

Tom-H@ck そうです。hotaruが化石を巡る物語を書くことになって、リード楽曲にするということで新しくサビをふたつくらい作って、歌詞を書いてもらって、KIHOWちゃんに歌ってもらって。それでも「いやー、ダメだね」ってことになって、さらに歌詞も全直し、サビも書き直しています。

――「ダメだね」って感じたのはどういったところだったですか?

Tom-H@ck ヒットを出せる優秀な音楽プロデューサー、作編曲家、アーティストなら音の重なりを聴いて、いわゆる、美味しいものを食べたときに感じる「ジューシーさ」みたいなものを感じ取れるはずなんですよ。僕の言葉で伝わるのか分かりませんけど、「ジュワ感」ってやつがあるんです。メロディだったり、コードの後ろが充実している感じだったり、「この流れで来たら反復でこうやって」みたいな理論が入っていたり、それは場合によって違うんですけど、そのジュワ感で判断しました。ただ、劇伴ではなく歌物の場合、ボーカルやハモリが入ってある程度ミックスした状態じゃないと判断が付かないんです。「KIHOWちゃんの声だからこれくらいのキーでこういう歌詞で歌い方はこんな感じで、そしたら70%のジュワ感かな」って予想のもとに楽曲を作るんですけど、実際に録ると100%になったり30%になったりもあるんですよ。今回もそこまでいって「ダメだった」ってことですね。例えば、シンセサイザーをグリグリ鳴らしただけでジュワ感が出ることはあまりなくて、ドラムとピアノ、ギター、ベース、ボーカルと音が重なったときにいい意味でエネルギーがぶつかる瞬間が出る。そうすると、街角を歩いているときに小さい音で聴こえてきただけなのに「あれ?」って振り返るような、そんないいメロディ、いいアレンジになるんです。中田ヤスタカさんしかり、最近だと米津玄師さんなんかはそうで、音を積み重ねたときのジュワ感がものすごいです。

――最初はそのジュワ感が単純に足りなかった?

Tom-H@ck そう。でも、ジュワ感って日本人にしか通じないんですよ。僕が21、2の頃に師匠(=百石元)とアンビエントレーベルをやっていて、ドイツのクリエイティブコモンズの考えで成り立っているサイトで音楽が無償で聴けるようにしていたんですけど、ジュワ感がある楽曲って海外では全然人気がなかったんですよ。外国の人が好きなメロディとか音の雰囲気とか積み方とかもやっぱりあって。いわばそれは、外国の人から見たジュワ感だとは思うんですけど。最初の「TRAGEDY−」はマニアックで、言ってみれば外国人が好きなジュワ感だったので、これを日本でやってもウケないと思って直しました。最初に直して外国と日本の中間のジュワ感になって、最後は日本人向けのジュワ感になったという感じですね。

――「日本ではウケないだろうけど前衛的だからいいや」とは考えなかったんですか?

Tom-H@ck 考えなかったですね。

――受け入れてもらうことが大切という思いが?

Tom-H@ck ありましたね。でもやっぱり、国内でやるエンターテインメントとして面白くない、というのがいちばんですね。「海外行ってやれよ」ってことになるじゃないですか。

――KIHOWさんをボーカルに選んだ理由というのは?

Tom-H@ck 多分、僕が出会ったアーティストの中で、英語の発音がここまで外国人に「近い」というか、英語の発音と発声の仕方が日本と海外のちょうど中間だった人っていなくて。それでこの曲を歌わせたいと思いました。それこそ歌詞が8割9割英語でできていますからね。

――KIHOWさんは最初に曲を受け取ったとき、どんな印象を持ちましたか?

KIHOW 歌ったことのないタイプの曲で、「すごいのが来た」という印象でした。メロディが変わるという話は聞いていたんですけど、個人的にはそのときに「いいな」と思いました。まだシンセのメロディだけが入った段階で歌についての指示は何もなかったんですけど、静かな始まりを聴いて「これは絶対にウィスパーだな」って感じましたし、自分のなかで「こう歌うべきだ」というのが分かる曲でした。

――Tom-H@ckさんのイメージをつかんでいますね。

Tom-H@ck 偶然にもね(笑)。でも、彼女はセンスがいいですよ。

――他に歌うときにイメージしたことはありますか。

KIHOW それから頭の中で感じていたのは「苦しさ」ですね。手をずっと伸ばし続けているイメージでした。どれだけ手を伸ばしても届かない、そういう苦しさを持って歌った方がいいとは感じていました。でも、実際にサビを歌ってみた仮歌を聴いたら、「ちょっと違う気がする」って感覚がありましたね。ただ、サビのメロディが最終的に落ち着いて、hotaruさんが歌詞をまとめてくれたら、どんどん歌いやすくなりました。なんていうか、(メロディが)変わる前は「いいな」と思っているんだけどそのメロディの良さを自分の声では引き出せない、という感覚だったのが、メロディが変わった後はメロディと自分の声がハマった気がします。だから歌いやすいと感じたというか、メロディの良さを自分の声で表現できた、というのが大きかったと思います。

Tom-H@ck 「自分の歌がハマった」なんて言える歌い手はそういないですよ。

KIHOW 恥ずかしいことを言いました?

Tom-H@ck いや、それを言えるというのは自分の声を俯瞰で見られているということ。KIHOWちゃんってめっちゃ器用な子で、アイドルっぽい声も声量のあるタイプの声も出せるから、「七色の歌声って言ってデビューしたら?」とか言ってたんですよ。そしたら、「Tomさん、アホみたいですよ」って言われちゃったんですけど。

――たしかにちょっとダサいですね(笑)。

Tom-H@ck でも、それこそ外国人風にも日本人風にも声を出せるんですよ。ただ、いろいろな声が出せるけど、その全てがものすごく太い鎖につながれているような感じって言うんですか。こう歌ってくれ、と頼んでもその鎖があるからとんでもないところにはいかない。表面的に様々な声を操るのではなく、ディープな自分の世界の中で個性を出していく感じなんです。実際、ボーカルディレクションをしていても、一瞬声を出しただけでみんなをその世界に引きずり込むディープさがある。上手い下手とか声質とは関係なく、それって天性の才能だと思いますよ。良い意味で「ボーカルディレクションでコントロールできないものを持っているな」というのがレコーディングの思い出ですね。

――KIHOWさんがTom-H@ckさんとのレコーディングのなかで覚えている思い出ってありますか?

KIHOW 思い出というか、技術的なアドバイスをいただいたとき、すぐに実行できるようになりたいとは思っていました。例えば、自分では思いつかなかったところに「ブレスを入れて」と言われることがあって。作品を仕上げるなかで必要な表現であるということが分かるからこそ、自分でコントロールできるようになりたいとは、アルバムのレコーディングを重ねるなかで思っていました。

――Tom-H@ckさんは完成した楽曲を聴いて、どこにたどり着いた感覚でいますか?

Tom-H@ck うーん……。非常に実験的な曲なのでね。実は、2番のBメロでドラムがものすごくでかくなるところがあるんですけど、「あの雰囲気でサビもいった方が良かったのかな」とは今でも思うんですよね。「また、ヒットの法則か」と言われそうですけど、ヒットの法則として、リズムの打点がはっきり分かる曲、というのがあるんです。ピコ太郎もブルゾンちえみ(が使用しているオースティン・マホーン「ダーティ・ワーク」)も実はドラムやベースの打点が分かりやすくて、ああいうのってヒットしやすいんですよ。そういう意味で、サビの打点を分かりやすいドラムにした方が良かったのかと思うんですけど、打点がいいドラムって3年ぐらい前に流行ったEDM感が出てしまうんですよね。だからそれを今のタイミングでやるのは乗り気ではなくて。振り切ってインダストリアルロックの方向のメロディにして、ボーカルも日本と外国の中間で歌っている感じにして、新しいところに落とし込もう、という考えに至ったんです。それで僕にしては珍しく「どうなのかな」とは思っています。

――自分にも結果が読めないところですか?

Tom-H@ck ビジネスとクリエイティブな面を考えると、前者が6、後者が4で作るのがいいと思っているんです。超売れっ子のプロデューサーになると7:3、「ビジネスが7でクリエイティブが3になっているな」という感覚がありますね。でも今回はその真逆。ヒットする法則を残してはいるけどかなり実験的で、ちょっとマニアックな楽曲なんですよ。ギターがベースの音を鳴らさずにベースの5度上、ドだったらソの音をドの下に持って来る形なので、コードのヒット理論が崩壊していますし。ドロップDとかBとか、チューニングを低くすればヘビーな音が得られるしキャッチーさも狙えるんですけど、でも僕はそれをやりたくないんですよね。いいフレーズがスラスラ出てくるし、だからメタル系では多用されているのは分かっているんですけど、商業作家としての10年間、レギュラーチューニングでそのヘビーさに対抗する、というのやってきているので。例えば、5度下を鳴らすようなコードを使った曲でヒットした曲もありますよ。『けいおん!!』の「GO! GO! MANIAC」がそれ。あれは普通のコードを鳴らしていません。でもカッティング系でズンズン系じゃない。だから通用したんですよね。今回はズンズン系なんですよ。5度下にしながらもズンズンやっているから音楽的にはなかなか難しいところがある曲なんですよね。そういう意味でもかなり実験的なものに覆われている楽曲にはなりましたよね。

――だからこそ、世に出てどのように受け止められるか楽しみですね。

Tom-H@ck そうですね。夜中の2時、3時にMVを流している番組があるじゃないですか。あとは、YouTubeの広告もそう。ジュワ感のある曲は、ああいうところで1小節流れただけでも人を惹きつけて、雪崩のように一気に広がっていきます。イヤホンとかヘッドホンではなく、テレビの小さなスピーカーから聴いてもジュワ感がある曲というのが、世に出て大ヒットしている楽曲の共通点なんですよ。音としてはローが削れているんだけど、人間にとって500Hz〜5KHzの敏感な帯域にもジュワ感が集約されているんですよね。このアルバムが出たとき、夜中のMVが流れるような番組で流れて、聴いた人が「なんだこいつら」ってパッと振り向くような曲になっていればいいですね。

Interview&Text By 清水耕司 (セブンデイズウォー)
Photography By 山本マオ


●リリース情報
1st Album
『eYe’s』
4月26日発売

【初回限定盤(CD+BD)】
品番:ZMCZ-11076
価格:¥4,000+税

【通常盤(CD)】
品番:ZMCZ-11077
価格:¥3,000+税

<CD>
01.- A beginning – Vocal:Imani Jessica Dawson
02.TRAGEDY:ETERNITY Vocal:KIHOW
03.Paradisus-Paradoxum(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』後期OPテーマ)
04.STYX HELIX(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』前期EDテーマ)
05.雪を聴く夜
06.Tough & Alone
07.ANGER/ANGER(TVアニメ『ブブキ・ブランキ』EDテーマ)
08.theater D(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」第14話挿入歌)
09.JINGO JUNGLE ‒HBB Remix-
10.Crazy Scary Holy Fantasy(「劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王」テーマソング)
11.L.L.L.(TVアニメ『オーバーロード』EDテーマ)
12.sunny garden Sunday
13.─to the future days
14.- An ending –

01、14…Vocal:Imani Jessica Dawson
02、05、06、12、13…Vocal:KIHOW
03、04、07、08、10、11…Vocal:Mayu
09…Vocal:Mayu、HUMAN BEATBOX:KAIRI

<Blu-ray>
1.「L.L.L.」Music Clip
2.「ANGER/ANGER」Music Clip
3.「STYX HELIX」Music Clip
4.「Paradisus-Paradoxum」Music Clip
5.「JINGO JUNGLE」Music Clip
6.「TRAGEDY:ETERNITY」(新曲) Music Clip

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