INTERVIEW
2016.09.16
普段、作詞家や作曲家を気にしながらアニメ音楽に親しんでいる人ならば、きっとfu_mou(ふもう)という少し変わった名前に見覚えがあることだろう。例えば『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』のEDテーマだったTrident「Innocent Blue」や『がっこうぐらし』のEDテーマに起用された黒崎真音「アフターグロウ」、そして直近では『プリパラ』3rdシーズン第2クールのOPテーマとしてオンエア中のらぁら with トライアングル「Brand New Dreamer」などを手がけ、さらに平野 綾や内田真礼、三澤紗千香、ナノといった声優/シンガーへの楽曲提供でも知られる敏腕クリエイターだ。
そんな彼が、この夏、自身初のアーティスト・アルバム『with open』を完成させた。最新のクラブ・シーンに直結したポップで奥深いエレクトロ・サウンドと、持ち味のエモーショナルなメロディーセンスが融合した本作は、独自の進化を続けるアニソン・シーンの第一線で活躍する彼ならではのポップセンスが炸裂した一枚となっている。アニソンとクラブ・ミュージックを繋ぐ存在としてますます注目を集めているfu_mouに話を訊いた。
――今回のアルバム、資料にある「エモーショナル・エレクトロ」という言葉がビシッと刺さるような内容で素晴らしかったです。これがご自身にとって初の単独CD作品ということになりますが、どのような経緯でリリースすることになったのでしょう?
fu_mou 直接の原因は、僕が楽曲を提供しているアップアップガールズ(仮)というアイドル・グループのマネージャーで、山田さんという方のひと言から始まりました。アプガが去年末に名古屋でカウントダウン・イベントをやったときに、僕もライブで一緒に出演させていただいたんですよ。それを見た山田さんに「fu_mouさん、すごくいいっすね!CD出さないんですか?」とおっしゃっていただいて、「いやー出したいんですよね」と返したら、「じゃあ出しましょうよ!」って(笑)。
――また突然ですね(笑)。
fu_mou それで、その現場にきてたT-Palette(タワーレコード内のレーベル)の吉野さんも「いいですね!」ということで、話が決まった感じです。
――じゃあ、トントン拍子でリリースが決まったわけですね。
fu_mou いやー、トントン拍子というか……。年末にその話をした後、半年ぐらい何もない期間がありまして。それで6月ぐらいになって、突然「じゃあアルバムどうしましょうか」って言われて(笑)。
――これまた急に再浮上したと(笑)。
fu_mou 急ではあったんですけど、もともとずっと自分の名義で自分の曲を出したかったんですよ。だから、今回のアルバムのために作りおろした曲というのはないんですけど、以前からライブをやらしてもらう機会はコンスタントにあって、そのために作った曲はあったので、それをちゃんとブラッシュアップして、アルバムにした感じです。
――なるほど。では、今回のアルバムに収録された9曲の他にもたくさんの楽曲を作ってこられたと思いますが、この形でまとめた理由やコンセプトのようなものはありますか?
fu_mou 内容的にはコンセプトというほどのものはないんですけど、デザイン的な部分ではコンセプトがあって。今回はジャケットとかブックレットで使っている写真は全部、僕の地元の墨田区近辺で撮影したんですよ。
――おっ、“East Tokyo”ですね。
fu_mou ええ。去年「East Tokyo」という曲を同人で出して、その評判がとても良かったのと、あとは単純に僕が地元感を出したいっていうのもあって。なので、デザイン周りはその形でまとめました。
――なるほど。ジャケットにはアプガの佐保明梨さんがフィーチャーされていて印象的ですが、そういえば彼女の着てるシャツに“easttokyo”と書かれてますものね。ブックレットの写真には東京スカイツリーも写っていますし。
fu_mou それと初めて出すアルバムなので、「やりたいことをしっかりやっていこう」とは考えていました。僕、自分の個人名義のまとまったリリースは、北海道のALTEMA Recordsというネットレーベルから出した『Green Night Parade EP』(2011年)が最初なんですけど、それがもう5年ぐらい前のことで。
――当時、クラブ・シーンなどでも話題になった作品ですね。
fu_mou そのEPは某ゲームのBGMをカバーしたポップな曲がタイトル・トラックになっていて。その曲のおかげでいろいろお話をいただけるようになったこともあって、“僕=「Green Night Parade」”のイメージが強いんですよ。仕事の内容もカラフルでポップな4つ打ちエレクトロの印象が強いと思うんですけど、実は僕のもともとのルーツはラウド・ロックとかミクスチャー・ロックにあって。
――へえ、それは意外でした!例えばどういったアーティストがお好きなんですか?
fu_mou その辺りのバンドでいちばん好きなのはトゥールなんですけど、実質影響を受けてるのはデフトーンズとかステインドだと思います。
――なるほど、エモいですね(笑)。
fu_mou なので、ライブではそっち系に寄った曲を結構やっていて。今回のアルバムではそういう部分も打ち出したいということで、「Shout」や「You Know You Lied」のような曲を入れています。
――確かにその2曲はラウドな要素とエレクトロの要素のハイブリッドなナンバーですね。個人的には、例えば同じくラウド畑出身のスクリレックスや、ナイフ・パーティーのような、現行の海外のエレクトロ・アクトとも共鳴する部分を感じたのですが、そういったいまの時代感を意識してサウンド作りに取り組んでいるのでしょうか?
fu_mou そうですね。ただ、「Shout」も「You Know You Lied」も作ったのは2013年頃なんですよ。なので“イマ感”というよりは、少し前かもしれないですね。今のEDMになるともう少し重心が低いというか、音数も少なめな傾向になっていると思うので。
――では、単純にその制作時期にご自身で作りたいものを作った成果としての楽曲が、今回のアルバムにまとめられているのですね。
fu_mou はい。収録曲はどれも作った時期がバラバラなんですけど、今まで作った曲をざっと並べてみて、どれをピックアップしてどう並べたらハマるかやってみた結果、「これがいちばん収まりが良さそう」という感じです。
――ちなみに収録曲のなかでいちばん古い曲はどれですか?
fu_mou たぶん「Abyssal Drop」ですね。これは一度発表してるんですけど(2012年のミックスCD『MOGRA MIX VOL.1 mixed by DJ WILDPARTY』に収録)、今回はアレンジを変えて収録しています。それこそ“イマ感”というか、やはり当時と今とでは音的にできることが違っていたりするのもあって、その部分を詰めていきたいなと思って。
――この曲はアルバムのリード・トラックで、佐保さんが出演するMVも公開されていますね。「Abyssal」は“深海、深層”といった意味合いの言葉で、楽曲自体が暗闇からサビで一気に明るい場所に飛び出すような鮮烈なアレンジに仕上がっています。歌詞の世界観も「喪失感から希望を見出していく」ような内容で、個人的にもグッときました。このモチーフは、作品全体にも通底しているように感じたのですが?
fu_mou そうですね。CDの帯に書いてある(「その孤独、夜明け前」)通りなんですけど(笑)。でも、特に狙ってやったわけではなくて、僕が書くとそうなるって感じで。ただ「Abyssal Drop」に関しては、実はしっかりした背景があるんです。
――それは?
fu_mou この曲を作ったのは2011年の震災の頃で。ちょうどその前ぐらいにALTEMAの人から「EP出しましょう」って声をかけてもらったのですが、僕はそのとき、今とは違う作家事務所に所属していたんですよ。音大を出てすぐに音楽の仕事に就こうと思ってその事務所に入ったんですけど、曲を書けども書けども箸にも棒にも引っかからず。
――なるほど。
fu_mou そんな時期に、音大の同級生だったkz(livetune)から「ネットレーベルが面白いぞ」という話を聞いて、自分でもそういう面白いことをやりたいと思って。それと、震災の少し前に宇都宮の惑星というクラブでイベントに出ていた人からDJのオファーをいただいたんですよ。そのイベントは仙台の人たちが宇都宮にきてやっていたので、知り合いに仙台の人たちが急に増えて。そのタイミングで震災が起きて、向こうの人に連絡も取れないし、行こうにも行けないし。そんなモヤモヤと、作家事務所でのうだつのあがらないモヤモヤがごちゃ混ぜになってできた歌詞なんです。
――では、その頃に抱えていたジレンマや歯痒さのような心情が反映された内容なのですね。そのお話を聞くと、歌詞の意味合いもよりリアルに感じられますね。「言葉が溢れ出す」の後の歌詞がわからないようになっているのも、モヤモヤ感が表現されているようにも見えますし。
fu_mou 先が見えないんだけど、最終的に活路を見出せたらいいな、という感じですかね。実際に、僕がいまの事務所の一二三に所属したのはこの曲がきっかけで。僕がEPを出したちょっとあとに、当時池尻大橋にあった2.5DというイベントスペースでALTEMA Recordsのイベントをやったんですよ。そのときに初めてライブで「Abyssal Drop」を披露して、そのUSTREAMを事務所の社長が見て、「これは!」ってことで声をかけてくれたという(笑)。
――本当に活路を見出すきっかけの曲になったわけですね。では、他の収録曲についてのお話も。「Walk Around」は『Green Night Parade EP』の頃のポップな感じがありつつ、アンセム感もあるナンバーです。
fu_mou 僕はラウド系のルーツとは別に、普通に「Green Night Parade」のような曲調も好きなので。世代的に元気ロケッツとかPerfumeが出てきた時代にDTMをやり始めた人間ですからね。
――そもそもどういった流れで、ルーツであるラウド・ロックからいまの音楽性に至ったのでしょうか。
fu_mou たぶん大学が転機なのかな。中学高校は軽音部に入ってたんですよ。当時はHi-STANDARDとかのメロコアやハードコアのブームがあって、同時に海外ではミクスチャー・ロックのいろいろなバンドが出てきて、日本でも流行り始めた時期で。なので、僕はそういったところから音楽をガッツリやるようになったんです。高校を卒業してからは、漠然と「音楽の仕事に就きたい」と思って音大に入って自分で曲を作り始めたんですけど、そのきっかけになったのがコーネリアスやSKETCH SHOWとかのエレクトロニカで。そうなるとラップトップ(・ミュージック)に興味がいくじゃないですか。
――そうですね。
fu_mou そこでkzと出会って。音楽祭が夏と冬にあったんですけど、大体kzと二人で何かしらやってたんですよ。彼がラップトップで、僕がアコギとかを弾いて、フォークトロニカみたいなのをやったり。それ以外にバンドでも一緒にやってましたね。
――では、音大時代にDTMの技術を習得して、現在に繋がる音楽性を獲得されたわけですね。その技術はもちろん作家仕事にも活かされていて、アニソンからアイドル・ソングまでたくさんの楽曲を手がけられていますが、なかでもアプガへの楽曲提供はfu_mouさんの名前をアイドル界隈に知らしめるきっかけになったと思います。今回はその提供曲のなかから「このメロディを君と」をセルフ・カバーされていますが、この曲を選んだ理由は?
fu_mou 単純に僕が好きだっていうのがあります。「この歌を自分でうたってみたい」という意味では「ストレラ!~Straight Up!~」も候補に挙げてたんですけど、歌詞が完全にアイドル寄りなので、僕みたいなおっさんが歌ったらちょっとアレかなっていう(笑)。そういう意味では「このメロディを君と」の歌詞はちょうどいい温度感なのかなあと思って。
――確かにアプガの曲だと他に「夕立ち!スルー・ザ・レインボー」(2012年)とかもありますが、アルバムのなかに置くと少し浮きそうな気がしますね。
fu_mou そうなんですよ。
――そういう意味でも「このメロディを君と」は、アルバムの中にまったく違和感なく収まっていますよね。そもそも歌詞はアプガに向けて書いたもののはずなのに、むしろアルバム全体を象徴するような内容にも見えるのが印象的です。例えば、私立恵比寿中学に提供した「スターダストライト」(2013年)も、「努力の末に輝きを獲得する」みたいな物語性が、今回のアルバムの詞世界と共通する部分があるように感じて。そこはやはりfu_mouさんならではのエッセンスでもあるのかなと思うのですが。
fu_mou 意図はないんですけど、出ちゃってますね(笑)。エビ中さんもアプガさんもですけど「這い上がってきた人たち」というイメージがあったのと、大きな舞台で歌われることを意識して作るので、その舞台に立ったときに歌って映える曲を考えると、みんなでシンガロングできるものがいいだろうな、と思って。「このメロディを君と」に関して言えば「ライブって楽しいよね」というところを意識してます。その辺がアイドル感なのかなと思うので。
――そういった輝きがエモーショナルに迫ってくるというのは、他の曲にも共通してますよね。前の事務所での経験から這い上がってきたというご自身の環境がフィードバックしている部分もありそうですし。
fu_mou それはありますね。アプガに提供するときはわりと自然にできるというか。ただ、毎回そんな曲だとそればっかりになっちゃうので、「もっと明るい感じにしてください」って言われたりします(笑)。
――なるほど。それと僕は「East Tokyo」がすごく好きで。この曲はベースラインとかビートの後ろ目な感じにアーバンな匂いを感じて。
fu_mou ああ。ちょいR&B感みたいなものはあると思います。この曲を提供したコンピレーション(2015年作『Beats!!』)はフューチャー・ベース系の曲がテーマだったので、フューチャー・ベースを意識した音色感にはしてます。うーん、ちょっとカントリー寄りのR&Bというか……。
――若干いなたい感じがしますものね。
fu_mou そう!それがちょうど「East Tokyo」感なんですよね(笑)。都心ではないというか、思いっきりアーバンではなくて、ちょっと牧歌的というか。あっ、それで思い出したけど、そういうメロディ感ということであれば、キセルとかが好きだったので、その辺の影響なのかなー。くるりもキセルと仲が良いですけど、曲によってはそういう感じの曲があるじゃないですか。
――確かにカントリーっぽい曲もありますものね。そして最後の曲「Scene the Scene」。
fu_mou これもまさに希望を見出していくような歌詞ですね。でも、これも“Re:animation”という野外のアニソン・レイヴ・イベントがあって、それに僕が出演したときにテーマ曲を頼まれて提供した曲なんですよ。
――では、そのイベントをイメージして書かれた曲なんですね。
fu_mou そうです。“Re:animation”は普通のパーティーから始まって、いろいろ苦労を重ねて、やっと新宿の街に許可を取って野外で大々的にやれるようになったっていう経緯があって。僕が出演したのは、その新宿で何度か開催して、人が1,000人とか2,000人とか集まるようになったけど、いろいろな事情があって新宿でやれる最後のタイミングかもしれなかったときで(2012年10月の“Re:animation Vol.4”)。なので、そのイベントがそれまで積み重ねてきたものと、イベント自体はこれで終わりというわけではなかったので、これからも前を向いて進んでいくぞ、という部分を反映した曲です。
――やはり最終的に希望に向かっていくようなストーリー性が、fu_mouさんの楽曲の持ち味のひとつだと感じますね。高音の効いた歌声もその世界観を後押しするような繊細さがあって。今回は全曲ご自身で歌唱してますが、自分の歌って好きですか?
fu_mou まあある程度は好きです(笑)。自分の話し声があまり好きではないので頑張って調整してるというか。自分で歌を録りながら、どうすれば理想の声に近づけるかというのを研究していますね。
――ちなみに提供曲の仮歌もご自身で歌うのですか?
fu_mou 仮歌はほとんど自分で歌ってます。黒崎(真音)さんとか女性のアーティストに曲を書くときも大体自分で。
――高音の部分とか大変じゃないですか?
fu_mou いや、キーを下げて録ったやつを上げて、女の子が歌う用のキーにしてるので。でもたぶん原キーでも歌おうと思えば歌えます。あー、でも黒崎さんは無理か(笑)。
――今回のアルバムはすべての楽曲を自分で作詞作曲して歌われた、シンガー・ソングライターとしてのデビュー盤という側面もあります。今後、シンガー・ソングライターとして表現したいもの、挑戦したいことはありますか?
fu_mou 僕の周りはみんなクラブ・ミュージックから入ってきた人が多くて、自分で歌わない人が多いので僕の存在ってちょっと異質なんですよ。でも僕は「なんで自分で作った曲を自分で歌わないんだろう」と思ってるぐらいで。僕は自分で作ったメロディは自分で歌いたい質なので、特に理由なく歌いたいから歌ってるって感じだったんですけど。でも、最近はライブをやっていけるアーティストでありたいなと強く思ってますね。できることならZAQさんみたいに、シンガー・ソングライターとしてアニメに曲を提供したいですし。
――おお! それは聴いてみたいですね。
fu_mou 僕が呼ばれるイベントって大体、ゲストDJという形で呼ばれることが多いんですよ。できればもっとステージを広く使って、パフォーマンスもやりつつっていうライブをやりたいし。だから今後はもっとそういう風にやっていけたらと思っています。
Interview & Text By 北野 創
●リリース情報
fu_mou(フモウ)
『with open』
発売中
品番:TRJC-1060 価格:¥2,000+税
<CD>
1.Abyssal Drop ※リード曲
2.with open arms, open eyes
3.You Know You Lied
4.Shout
5.I wanna see
6.Walk Around
7.East Tokyo
8.このメロディを君と ※アップアップガールズ(仮)提供曲セルフカバー
9.Scene the Scene
All Songs Written by fu_mou Arranged & Produced by fu_mou
<fu_mou プロフィール>
フモウ/クリエイター。私立恵比寿中学、アップアップガールズ(仮)などリアルアイドルに楽曲を提供する一方、黒崎真音、内田真礼、『プリパラ』『蒼き鋼のアルペジオ』主題歌や『アイカツ』などアニメ音楽を数多く手がける。先日アーティストとして初となるフル・アルバム『with open』をリリースした。
SHARE