INTERVIEW
2016.05.24
数々の実写映画、実写ドラマに加え、『PSYCHO-PASS サイコパス』『ジョジョの奇妙な冒険』(3rd・4th シーズン)』『ガンダム Gのレコンギスタ』などでアニメ作品の音楽を担当してきた菅野祐悟。現在、TVシリーズと劇場版が同時進行する『亜人』でも劇伴を手がける彼に、『亜人』音楽の神髄を語ってもらった。
音楽を聴いたときの心情は「共感」
劇伴というのは過去の記憶に紐付いた音楽を作るということなんです
――今回の『亜人』には、最近よくお仕事をご一緒されている岩浪美和音響監督からのお声がけで参加されたとお聞きしました。
菅野祐悟 そうですね。そもそもとしては、『踊る大捜査線』シリーズ(『THE MOVIE 3』『THE FINAL』)でお仕事をご一緒した本広(克行)監督が『PSYCHO-PASS サイコパス』(TVシリーズ、劇場版)の総監督を担当されるときにスタッフに入れていただき、そこで初めて岩浪音響監督と出会ったんです。そこからの流れで『ジョジョの奇妙な冒険』や、今回の『亜人』にスタッフィングしていただきました。
――『亜人』に対して、どのようにイメージを膨らませて楽曲制作されていったのでしょうか?
菅野 亜人の特徴って「死なない」ということだと思うんです。「死なない」ということは、「死ねない苦しみ」と「人間の死にたくないという欲望」の究極形がそこに現れる。つまりは、「究極の人間らしさ」なんじゃないかと。ですので、亜人って人間の欲望が集中しているキャラクターだと思い、むしろ人間らしい音楽を付ける必要があると考えました。そこで、僕の心臓の音を録音して使ったり、歌舞伎町や渋谷のスクランブル交差点の雑踏の音を録音して使ったり、ということをやってみました。自分の声もたくさん使ってます。あとは例えば、ギターに関しても、痛みを表現するために包丁で弾いてみたり、ドリルで弾いてみたり。そういった、人間の欲望とか人間らしさを表す音をあらゆるところから収集するということを、『亜人』らしい音楽を作るためにやりました。
――下村と田中がIBMで戦うシーンの音楽は重々しくクラシカルながら、いわゆる「戦闘シーン」っぽい音楽ではなかったので印象に残りました。人間らしい音が集められた『亜人』という作品において、「人間ではない」IBMの音楽はどんな意識で作られたのですか?
菅野 音楽を聴いたときの心情は「共感」なんです。それはどういうことかというと、過去の記憶から来ているということ。劇伴というのは過去の記憶に紐付いた音楽を作るということなんです。例えば、「宇宙のシーンの音楽」とみんなが勝手に思うイメージってあると思うんです。でも、何をもって「宇宙」なのか。そう感じる理由はというと、昔の作曲家の誰かが紐付けたからなんですね。例えば、『2001年宇宙の旅』とか。
――あの映画以降、クラシックがSF映画音楽の主流になりました。
菅野 そういう過去の記憶を利用して、僕らは(映画音楽を)作曲しています。でも、IBMって「フィクション」で、『亜人』を観る方にとっても初体験の要素なんです。だから、オリジナルの音楽を用意しないといけない。『亜人』に限らず、映画音楽では初体験の部分と記憶に紐付ける部分があるんですけど、IBMは初体験が求められる部分であり、誰も聴いたことのないワクワクする音楽を作らないといけないところなんです。でも、先ほどおっしゃられたシーンに関して言えば、「やっぱりTVって面白いな」と思うんですよね。例えば映画の場合、すごくいいセリフの直前でスパッと音楽を切り、いいセリフは無音で言わせて、その後に音楽で盛り上げる、ということを0.1秒単位で計算して作れる。つまり、僕の脳が映像にそのまま反映されるんです。
――映画では映像をいただいてから音楽の制作に入りますよね。
菅野 だけどドラマでもアニメでも、映像をほとんど観られないので想像するしかない。そうなると、脚本だけを読んで作るので、僕の頭の中身を提案したとしても、どうしても映像と合わせたときに微妙なズレが生じます。ただ、その微妙なズレがミラクルとして起きることがあるのがTV。例えば、曲のサビと映像のクライマックスを音響監督がピタッとはめるとします。その場合、その前は全部“ズレ”ていくんですよね。後ろもそうです。映像に音が合っていない可能性があるわけです。でも、そういう“外し”が、映像にとって良い効果を生むこともあって。例えば、あるキャラクターが登場するシーンがあって、普通はそのクライマックスに向かって音楽が徐々に盛り上がっていくとします。でも、ズレによってクライマックス前に音楽が揺れ動くことがあるんです。そうすると、音楽の力で主人公の気持ちもすごく揺れ動いているように見える。絵だけでは表せない、しかも音楽家が完璧に計算していたら出てこなかった主人公の心情が、そこに現れるということなんです。人間って普段、他人には分からない気持ちの変化というのが心の中にあると思うんです。そういう気持ちの変化が音響監督の選曲によって表現される。僕の側でベタベタな展開の楽曲を付けるよりも、より主人公の魅力が現れることが多々あるんです。田中と下村がIBMで戦うシーンは、もし僕がTVシリーズの映像を全部見せてもらってから音楽を付けたら、あの音楽にならなかった可能性もありますよね。
――予想もつかない形で何かが生まれてくる瞬間ですね。
菅野 いろいろな人の才能やアイデアが集まっているからこそ、印象に残るシーンを作れたということだと思うんです。決してあの音楽を作った僕の才能ではなく、選曲した岩浪さんや監督、多くの人達の才能の賜物ですね。僕としては、映画であってもドラマであっても全力で音楽を作るだけで、絶対的な信頼の元に楽曲をお預けしています。でも、TVシリーズならではのウルトラCやミラクルって多いですよ。
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