INTERVIEW
2016.05.04
VOCALOID黎明期から長年熱い支持を得てきた人気ボカロPのdoriko。”ボカロ版・時代小説集”として制作し、「過去への郷愁」をテーマに2014年に発売した1stコンセプト・ミニアルバム『Nostalgia』、2015年に「原点」を意識して制作した2ndコンセプト・ミニアルバム『origin』に続く、3部作の最後を飾る3rdコンセプト・ミニアルバム『finale』が5月4日にリリースされる。今回のテーマは、「別れ/旅立ち」。dorikoが、どんな想いを胸に作品を作りあげたのか、収録曲に込めたそれぞれの想いも含め、ここにお伝えしよう。
『finale』を通して、これまでの活動へひとつの区切りをつけた形も取っています
――3部作の最終章となる『finale』が完成。その話へ入る前に、改めて3部作を制作しようとした意図や想いを聞かせてください。
doriko 僕のスタイルである、初音ミクのVOCALOIDを用いて作りあげる楽曲には、ひとつの大きな特色があります。それは、「時間の流れ」を題材にした楽曲を多く手がけてきたことです。今回も、それをテーマに3部作となる作品集を作ろうと思ったのが始まりでした。1stコンセプト・ミニアルバム『Nostalgia』は、その名のとおり「過去への郷愁」を、2ndコンセプト・ミニアルバム『origin』は、「自分の原点」をテーマに作りあげました。今回3部作の最後を担う『finale』では、その想いを完結させたうえで、次へ進みたい意識が強かったので「別れ/旅立ち」を題材に据えた曲たちを並べています。このシリーズに収録した曲たちはどれも、自分の気持ちに正直に向き合い、そこから生まれた曲たちばかりです。すべて、自分の求めたとおりに作りあげられた楽曲たちになりました。同時に『finale』を通して、これまでの活動へひとつの区切りをつけた形も取っています。
――どの作品も、どの歌も、自分自身の気持ちに置き換え共感をもって聴ける楽曲ばかり。想いの一つひとつがリアルに見えてくるのは、dorikoさん自身が素直に感情を投影しているからでしょうか?
doriko そうですね。物語のような歌詞が多いんですけど、その中には、必ず自分の意志や感情を投影しています。もっと言うなら、どの曲も自分自身に言い聞かせているように、「自らを応援していく」側面もけっこう強いと思います。
――『finale』に収録された曲たちもそうですが、dorikoさんの歌は弱い自分や、世間からは「違う」とレッテルを貼られた自分自身さえも、「それが自分らしさなんだから」と肯定していく内容も多いですよね。
doriko 『finale』を通して語るなら、「過ぎし3月の君へ」に登場する主人公は、まさにそうですね。ただただネガティブな想いではなく、弱い自分を肯定したうえで次への希望を投影したかったんです。同時に、その場にずっと立ち止まっている「私」も、主人公の気持ちと対比するように登場しています。
――世間から後ろ指をさされようが、「その姿が自分なんだから」と自らを肯定していくという意味では、「跡濁り」に登場する鳥の意識や生きざまにもすごく共鳴しました。まさに、「周りが何を言おうと、それが自分なんだから、その生き方を自信を持って貫けば良い」という想いに……。
doriko 「立つ鳥跡を濁さず」という言葉は皆さんご存じだと思いますけど、とある友人と話をしているときに、「確かに周りは、跡を濁さずきれいに飛び去ってくれたほうが気持ちいいかもしれないけど、跡を濁そうが何だろうが、鳥自身が良いと思っていれば、好き勝手に羽ばたきゃいいじゃん。それって、アーティストにも言えることだよね」と僕に語りかけてきたんですね。その視点が、僕には思いも寄らない新鮮な驚きでした。しかもそれは、すごく納得のいく考え方だったんです。その言葉をきっかけに、「不器用な自分でいいんだ」という想いを鳥の姿に投影する形で「跡濁り」という曲が生まれました。また「夕暮れと共に」は、友人と「次は『finale』というアルバムを作るんだけど、どういう曲を入れようか考えてる最中なんだ」という話をしていたときに、「『finale』って、人の終わりのこと?」と言った、その言葉がきっかけで生まれた曲なんです。
――あっ、だからあの世界観なんですね。
doriko あえて明るい曲調に、別れ=亡くなった人の想いを乗せてみました。
――そのヒントをいただいたことで、dorikoさんが歌詞に詰め込んだ想いが、より鮮明に伝わってきました。
doriko 僕自身は「聴いた人それぞれの解釈で楽しんでもらえればそれでいい」と思っていて、「僕自身の真意は、分かる人にだけ伝わればいい」という考えなんですけど、でも、「この歌にはこういう想いを詰め込んだんだよ」というヒントを伝えたほうが、より歌の理解度が深まるのかな?とも思うようになりました。そのきっかけは、「歌ってみた」出身のアーティストに提供した「last will」をセルフ・カバーすると決めたときに、身近なスタッフさんに「これは何の歌?」と聞かれたことからなんです。そのときは、「これは大事な人に対する遺言の歌」と説明したのですが、そんな出来事もあって、いろんな曲に込めた僕の本心を伝えたほうが、より深みを持って『finale』の曲たちを聴いてもらえるかな、と思って今回、僕の想いをお話しするようにしています。人は、2度死を迎えると言われています。1回目は、身体が亡くなること、そして2回目は、時が流れその人のことを覚えてる人が誰もいなくなったときのことです。「last will」は、2度目の死を迎えるにあたって、生きている人たちに宛てた遺言なんです。そうやって聴いていただけると、より深く言葉に込めた想いを捉えてもらえるかな、と思います。
――そして「Another Episode」は、dorikoさんの代表的な楽曲「ロミオとシンデレラ」の物語と関連した歌ですか?
doriko そうです。今回『finale』という作品を出すにあたって、「『ロミオとシンデレラ』の物語には、こんな結末もあったのかもね」ということで書きました。今回、3部作の完結編ということで、これまでの流れをずっと聴いてくれている人は特に「そうなんだ」と感じてもらえたらうれしいなと思ってこの曲を入れてます。
――感謝の想いという視点で捉えるなら、「1+1」や「エンドロール」もそうですよね。
doriko 「1+1」に描いた“大切な人と自分”。もちろん「人と人」として捉えて聴いていただいて構わないんですけど、この曲でいう僕にとっての大切な人って、VOCALOIDの初音ミクなんです。僕はこの3部作を、ひとつの流れを持ったVOCALOID作品として作りあげました。だからこそ、その想いを自分なりに総括しようと思い、「自分とVOCALOID」という関係性をテーマにこの曲を書きました。歌詞の最後に“そのドアを二人で開けたら”と書きましたが、それは、今回のジャケットのイラストにも繋がっています。今回の作品のコンセプトの軸を担っているのが、まさにこの曲なんです。
――最後に収録した「エンドロール」へは、dorikoさん自身の心模様が投影されています。
doriko 最初は「1+1」で物語を終えようと思っていたんですけど、僕自身の希望を含んだ想いと言いますか、嘘偽りのない正直な気持ちを思いきりぶつけた曲として、この「エンドロール」を書きました。僕自身はちょっと恥ずかしさもありますけど(笑)、このシリーズにひと区切りをつけるためにも、最後に“私はいつまででも”という言葉を記して、「自分の想いが続く限り、いつまでもVOCALOID曲を作り続けます」という決意表明のような気持ちもここには込めています。
――dorikoさんの作るボカロ曲って、とても人間くさいじゃないですか。だから、大勢の人たちが長年に渡って支持し続けてるんだろうなと思います。
doriko いわゆるネット界隈の音楽シーンって、生まれてからまだ10年くらいのものなんですよ。でも、J-POPシーン以上に何倍もの早い速度で目まぐるしく流行が変遷していく。そんななか、僕も流行りを意識しようか迷ったこともありました。でも、それって自分のスタイルではないと思って、僕自身はずっと自分らしさを貫いてきました。それが結果的に支持され続けているというのはすごくうれしいことなんです。
――dorikoさんの楽曲が伝える想いには、年齢に関係なく、勇気を与えてくれる力がありますね。
doriko そう思っていただけてるのであればうれしいですね。これからも僕は、自分の表現意識を変えることなく、良い意味で、等身大な自分の気持ちを投影し続けていくんだと思います。
――dorikoさんも今年で活動9年目、来年は10周年を迎えます。
doriko ひとつの良い区切りとなる年だから、何をしようか考えてはいます。今回の話とはずれちゃいますが、僕が初期に作った楽曲で、いまだに根強い支持を得ている楽曲の中に“10年後の私へ”という歌詞が登場する、未来の自分へ向けた手紙のような曲があります。その“10年後”をもうすぐ迎えるので、この曲に対しても何かしようかなと、いろいろ考えているところです。この3部作でVOCALOIDコンセプト・アルバム・シリーズをひと区切りにし、また次へ向かおうという意識ではいますが、だからと言ってVOCALOIDナンバーの制作を止めるつもりもないですし、動画もあげ続けていこうと思っています。もちろん、依頼があればヴォーカリストさんへの楽曲提供も続けていきたいです。そんなことをいろいろと考えながら、おぼろげに10周年の自分の姿も思い描いてるのが、今の僕自身なんです(笑)。
Interview&Text by 長澤智典
●リリース情報
doriko feat.初音ミク 3rdコンセプトミニアルバム
『finale』
5月4日発売
品番:JBCZ-9026
価格:¥2,200+税
初回生産限定仕様:豪華三方背スリーブ付き!
<CD>
1.過ぎし3月の君へ
2.夕暮れと共に
3.跡濁り
4.last will
5.Another Episode
6.1+1
7.エンドロール
8.雪がとける前に [bonus track]
全作詞・作曲:doriko
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