INTERVIEW
2015.09.09
アニメ『メカクシティアクターズ』の放送に渋谷公会堂での2DAYSライブ……怒涛の大展開を見せた2014年を経て、2015年春、“カゲロウプロジェクト”より小説最新刊「カゲロウイズⅥ」とアルバム『MEKAKUCITY M’s ~メカクシティアクターズ・ヴォーカル&サウンド コレクション』が発表された。約半年の時を経て、再び動き始めたじん。ここではさらにビジュアルクリエイターであるしづも加え、ふたりに近況と今リリースの中身について聞いた。
アニメで声のイメージがリアルになったので、言葉選びが変わりました(じん)
――アニメ『メカクシティアクターズ』の最終回から早くも1年が過ぎようとしていますが、アニメ放送中や放送後のことで何か覚えていることはありますか?
しづ 放送中、いつもTwitterを見ていたのですが、なんか絶叫とかしてて、みんなの反応が面白かったな、と。毎話、放送後2日目まではキャラのこととかストーリーのことで盛り上がり、3日目からは次回に向けての心構えを説きはじめたりして。
――視聴者の皆さんの反応がダイレクトだった、と。
しづ 私自身はキャラに声がついたことがうれしかったですね。キャスティングはキャラに合うようにしていただいたので、イメージが変わるってことはなかったんですけど、表情が変わったというか。例えば(九ノ瀬)遥とかはこれまでフワッとした雰囲気の絵しか描かなかったんですが、声優さんが演じてくれたことで、生き生きとした表情もするようになったというか。アニメ後はギャグ系の顔も描けるようになったというか。
じん アニメの放送前と放送後で変わったことはたしかにありましたね。僕も小説の最新刊を書いていて、キャラが勝手にしゃべりだすというか。アニメで声のイメージがリアルになったので、「あの声でこんな言い方しないよな」「あのしゃべり方でこんな長台詞はないよな」というように言葉選びが変わりました。やっぱり遥は宮野(真守)さんの演技がスゴかったから(笑)、しづさんとも「いちばん変わったよね」と。
アニメ化がもたらしたもの
――3月末に発売された最新刊「カゲロウデイズⅥ」にその変化が現れているんですね?
じん そうですね。何より小説を書く気構えみたいなものが変わりましたから。個でやるアーティスティックな作品づくりと、ロジックを突き詰めてチームワークでやる作品づくりとはまったく違うものだとアニメの制作を経験してわかりましたので。
――といいますと?
じん あれだけの大人数で作るアニメは本当に緻密な計算のうえに成り立っているんだなということを実感しまして、自分たちには甘い部分があったなと。例えばCDを1枚作るにしても、この音楽ってどういう人間がどういうふうに携わって、どういう過程を経て、どういうところから生まれてきたエッセンスが最終的に盤になるのかっていうビジョンがちゃんと見えているかって話ですね。小説だって、僕が指を素早く動かせば出来上がるものじゃないぞと。アニメが終わってからは、スタッフみんながもっともっと同じビジョンに向かって進まないと歯車が噛み合わなくなるぞということを考えながら、一日中部屋の壁を見て過ごしてみたり(笑)。でもおかげで小説の6巻は自分でも満足のできる出来になったのかなと。もちろん未熟な部分もまだまだあるんですが、今現在も7巻に向けていい仕事ができているなって感じです。
――制作がシャフトなだけあって『メカクシティアクターズ』はアーティスティックな作品に見えましたけども、実はロジカルに作られたものだったと。
じん 要はアートとエンターテインメントは違うってことですね。
――しづさんは仕事のやり方でアニメの現場から学んだことはありましたか?
しづ 実は私はあんまり変わってなくて……。今の話みたいなことも考えたことなくて。
――なるほど(笑)。たしかに今のじんさんのお話は、プロデューサーに近い目線ですものね。
じん あぁ、そうかぁ、いや〜。
――ど、どうされたんですか? かなり視野の広いお話だったな、と。創作者のなかには「俺はこれしか作らん!」という方もいらっしゃるなかで……。
じん いやぁ、僕も個人的にはそうなりたいんですよ。「俺は土器しか作らん!」みたいな人になれたらいいなって本当は思っているんです。
しづ なんかすごい考えているんですね。
じん そりゃ考えてるよ〜。
しづ 私、何も考えないから。
じん しづさんは考えなくてもいいと思うよ。
しづ 考えるとめんどくさなっちゃって、ゲームはじめちゃうから。
じん そこは俺も一緒(笑)。
――ものを作る人のタイプですよね。そういういろいろな人が集まって、ひとつのエンターテインメントが出来上がっていくという。
じん しづさんはアートな方ですからね。出来上がった絵を何も言わずに見せてきて、そのままガラガラ〜ってシャッターを閉めちゃう(笑)。でも上がってくる作品はいつもスゴくて、へんに修正するよりこのままでいきたいって思わせるカリスマ性があるんですよ。そういうのには憧れますね。まあこの話、しづさんを褒めるだけ褒めてなんのオチもないんですけども。
しづ そ、そうっすか。ありがとうございます。
安っぽいものを作りたくない
――では話を変えまして、この4〜6月にリリースされた『MEKAKUCITY M’s 〜メカクシティアクターズ・ヴォーカル&サウンド コレクション〜』について。何よりCOMPLETE BOXの豪華さがすごい。
じん 各所にわがままを言ってこんなでかいものを作ってしまいました。
しづ こういうの作ると置き場所に困るってみんなに言われるんですよね。本棚にもCDラックにも入らないって。
じん 5枚組のCD+DVDをどうパッケージにしていくか考えたときに、絵本みたくしようってアイデアが出たんですね。それならば装丁や紙にこだわりまくろうと。この作品は『メカクシティアクターズ』をこれまで応援し続けてきてくれたみんなに向けたものだから、安っぽいものを作りたくなかった。人にお礼をしたいときって普通は自分がもらってうれしいものを考えるじゃないですか。その感覚を忘れたくなくて。とはいえ「じゃあ値段を気にせず作ればいい」ってわけでもないので、可能な限りあちこち無理を言ってなんとか満足いく質のまま6000円(税抜)を切ることができました。
参加クリエイターそれぞれの個性
――サントラ・アルバムについて聞きたいのですが、しづさんは印象に残った音ってありますか?
しづ 第4話の異空間のシーンですね。
じん 「in a daze」だ。
しづ スコーン、ヒヨヒヨヒヨって。
じん この曲はちょうど僕が作ったんですが、第4話が元々「カゲロウデイズ」というギターリスペクトな曲とリンクしているので、劇伴もそのギターのコンディションで作ろうってコンセプトがあったんですね。なので「in a daze」では「カゲロウデイズ」で実際に使ったギターを用意して、あえて弾かずにアンプをいじったりしてジジジジジってシングルコードのノイズだけを録ったりして音を作っていきました。つまりはこの曲、ギター1本しか使っていなくて、スタジオにも入っていない(笑)。
しづ なんかこの音と電線のウニャウニャって描写が結びついてずっと頭から離れないんですよね。
じん 僕もオンエアで観たとき「こわっ」て思いましたね。空の青色も印象的でしたよね。
――『メカクシティアクターズ』の劇伴は不穏な音が多かったですよね? 特にANANT-GARDE EYESさん。
じん そうですね、水を得た魚のように(笑)。ミニマルな感じでありながら、シチュエーションが多いのでそうとも聴こえないという、なんとも不思議な音を作ってくださいました。この音どうやって出しているんだ? みたいな(笑)。おふたりとも博士みたいな方で、ANANT-GARDE EYESならではの色を出していただきました。
――逆に中西亮輔さんの音は、ストレートに聴こえてきました。
じん たしかに中西さんは過去の作品を聴いたとき、日常シーンに使われるような音にまずピンときてお願いしたので、この作品の支えになっていただいたような気はしますね。中西さんも相当実験的な音づくりをされていましたけども、バランス感が素晴らしくって。
――スポット的な参加ではTeddy-Loidさんやsasakure.UKさんらの名前もありましたが、そもそも劇伴作家選びはどのような趣旨だったのですか?
じん 「好きにやってください」と発注できる人たちですね。この人にこのシチュエーションを頼んだら絶対にカッコよくなるなって確信を持てる方にお願いしようと。sasakure.UKさんなんか典型で、発注したのは第6話の劇中シューティングゲームの曲(「a headphone actor」)なんですけど、“節”でお願いしますって言ったらもう、ピコピコと。
しづ 「あ、sasakure.UKさんだな」ってなった(笑)。
――あとは滝 善充(9mm Parabellum Bullet)さんの「The Gatling Children」にはびっくりしました。
じん 僕もびっくりしました。まさかお仕事請けてくれるとは(笑)。
――元々のお知り合いじゃなかったんですか?
じん いやいやいや。ただのファンですよ。高校の頃は9mm Parabellum Bulletをカバーしてたくらいです。ダメ元でお願いしたらOKいただいて、これも「滝さん節でお願いします」って発注したら、一発で滝さんだとわかる音になっていて。実にいい思いをさせていただきました(笑)。
多岐にわたった新録7曲
――ボーカル・アルバムはこれまで発表してきた曲に加え、7曲が新録されていますね。
しづ サウンド的には「アウターサイエンス」が好きですね。
じん Teddy-Loid先生ですね。いちばんデジタルな曲かな。
――「アウターサイエンス」のボーカルはしづさんがキャラクターデザインされたONE(読み:オネ)ですね。いわゆるバーチャルボーカリストですが、初めて使用してみてじんさん的にはいかがでしたか?
じん 柔らかい声のIAと違ってONEにはいい歪み感があって、子音に特徴があるなというのが感想です。速い曲とかはIAよりも得意なのかなと。
しづ それとボーカル的には「シニガミレコード」が。サバンナな感じであれだけ世界観が違うんですよ。
じん ヌーの大移動みたいな(笑)。元々ANANT-GARDE EYESさんに編曲をお願いする際に、言葉ではなく太陽をバックにキリンとかのシルエットが写ってるサバンナの写真だけペロッと送ったんですよ。そしたらLiaさんとこんな素敵な曲に仕上げてくださって。
しづ 夕日が沈む感じ。
じん 後半のピアノが自由すぎて(笑)。
――新しいボーカリストで言うと、nano.RIPEのきみコさんが「少年ブレイヴ」で参加されていますね。
じん これは「空想フォレスト」の対になっている曲で、「空想フォレスト」は女性が主人公の曲で、「少年ブレイヴ」は男性が主人公の曲なんですね。それで歌い手は異性同士のほうが素直に歌えるかなと思って、女性の曲を男性が歌って、男性の曲を女性に歌ってもらいたかった。なのでヨシダタクミさんと対になるという意味でも、きみコさんにぜひお願いしたいと思って。
しづ 女性なんだけど少年感あって。ボーカルすごく良かったです。あと「夜咄ディセイブ」はアニメで流れるものだとばかり思ってたので、この機会にアレンジされて「やったぜ」って感じですね。
じん よりによってLiSAさんとメイリアさんのツインボーカルですからね。レコーディングでふたり一緒だったんですけど、緊張しました。いろいろ提案してくださるのが、恐れ多くて。ふたりともパワフルなので、もしこの曲をライブでやる機会があったとしたら、ステージが狭くなりそう(笑)。
――コンビといえば田口囁一さんがAnnabelさんと「透明アンサー」を歌われましたね。
しづ この女性ボーカルの存在感がずっと気になっていたんですよね。
じん そもそも田口さんとAnnabelさんが知り合いで、田口さんの感傷ベクトルとツーマンライブをやったりしている仲なんですね。で、「透明アンサー」は男女ユニットで歌ってほしい曲だったので、ちょうどいいからお願いしちゃおうという感じで。
――そして異色の組み合わせで「マリーの架空世界」のLia & Maya。まさかの親子共演!
じん これ、すごいです。泣けちゃいました。狙っていたイメージがバーっと広がった感じがして、お母さんが娘を抱きながら歌っている立ち位置とか、情念が見えたような。なんてったって本物の親子で歌っていますからね。
しづ 童謡っぽい。
じん 元々のテーマは沖縄民謡なんですけど、めざしたところはNHKの「みんなのうた」なんですよね。メロだけで勝負するような曲を作りたくて。
――ニュアンス変わりますが「群青レイン」もじわっときますよね。
じん 奥井(亜紀)さんですね。これもイメージどおりに仕上がった曲です。ギター・ロックらしいギター・ロックに仕上がったなと。グランドキャニオンでレスポールをかき鳴らして、それをヘリコプターから撮るようなスケール感。
――洋楽のロックらしいロックですね。
じん この曲の編曲はまずUKなのかUSなのかってところから議論が始まりましたからね(笑)。
――改めて、ものすごいボリュームのアルバムが完成しましたね。
じん こんなもの作っちゃってごめんさい(笑)。全部聴くのは大変だと思いますけど、楽しんでもらえたらなと思います。
Interview&Text By 西原史顕
●リリース情報
『MEKAKUCITY M’s COMPLETE~メカクシティアクターズ・ヴォーカル&サウンド コレクション~』
発売中
【初回生産限定盤(4CD+DVD)】
品番:ZMCL-1018
価格:¥5,980+税
【通常盤(2CD)】
品番:ZMCL-1023
価格¥2,980+税
※Disc.1とDisc.3を収録
『MEKAKUCITY M’s2~メカクシティアクターズ・ヴォーカル&サウンド コレクション』
発売中
品番:ZMCL-1025
価格:¥2,980+税
※Disc.2とDisc.4を収録
<DISC.1>
1.daze(Re Ver.)/じん ft.メイリア from GARNiDELiA
2.ヘッドフォンアクター/じん ft.LiSA
3.空想フォレスト/じん ft.ヨシダタクミ(phatmans after school)
4.夕景イエスタデイ/じん ft.LiSA
5.群青レイン/じん ft.奥井亜紀
6.カゲロウデイズ/じん ft.田口囁一(感傷ベクトル)
7.メカクシコード/じん ft.やさぐれ子猫
8.アヤノの幸福理論/じん ft.奥井亜紀
9.ロスタイムメモリー/じん ft.松山晃太(BYEE the ROUND)
10.シニガミレコード/じん ft.Lia
<Disc.2>
1.チルドレンレコード/じん ft.メイリア from GARNiDELiA
2.如月アテンション/じん ft.春奈るな
3.少年ブレイヴ/じん ft.nano.RIPE きみコ
4.夜咄ディセイブ/じん ft.LiSA & メイリア from GARNiDELiA
5.コノハの世界事情/じん ft.ナノウ
6.透明アンサー/じん ft.田口囁一(感傷ベクトル) & Annabel
7.アウターサイエンス/じん ft.ONE
8.オツキミリサイタル/じん ft.IA
9.マリーの架空世界/じん ft.Lia & Maya
10.days(Re Ver.)/じん ft. Lia
11.サマータイムレコード
<Disc.3>
1.カイエンパンザマスト/じん
2.おさんぽ日和/石風呂
3.ニート炎天下に立つ/中西亮輔
4.電脳少女と引き蘢り男/中西亮輔
5.口下手と饒舌/TeddyLoid
6.白昼のデッドアラート/TeddyLoid
7.Children’s time/TeddyLoid
8.アイドルが止まらない!!/中西亮輔
9.キサラギ/中西亮輔
10.留年~2度目の春~/中西亮輔
11.もう、いない/ANANT-GARDE EYES
12.色の無い放課後/ANANT-GARDE EYES
13.その日、僕は都会に居た/中西亮輔
14.亡霊少女の勧誘/ANANT-GARDE EYES
15.初任務/ANANT-GARDE EYES
16.秘密組織のアジトにて/ANANT-GARDE EYES
17.我が団ではこういった悶着が日常的に巻き起こっております/中西亮輔
18.忘却の夏/じん
19.遥か都会への道程/中西亮輔
20.腕によりをかけて/中西亮輔
21.プレッシャープリンセス/中西亮輔
22.in a daze/じん
23.目に焼き付ける/じん
24.決闘/ANANT-GARDE EYES
25.団員ナンバーはラッキー7/ANANT-GARDE EYES
26.たまには昔の思い出を/ANANT-GARDE EYES
27.コノハ/ANANT-GARDE EYES
28.The lazy girl blues/中西亮輔
29.a headphone actor/sasakure.UK
30.リアルの方が無理ゲー/中西亮輔
31.小休止/中西亮輔
32.夕景が滲んで/ANANT-GARDE EYES
<Disc.4>
1.勝ち気な彼女の世界事情/ANANT-GARDE EYES
2.本当の気持ちを/ANANT-GARDE EYES
3.エネ/ANANT-GARDE EYES
4.You know what?/ANANT-GARDE EYES
5.unknown/白神真志朗
6.in living memory/白神真志朗
7.夏に捕らわれて/白神真志朗
8.塗装戦隊ラクガキレンジャー/ANANT-GARDE EYES
9.蛇/ANANT-GARDE EYES
10.初めて/ANANT-GARDE EYES
11.Night walk/ANANT-GARDE EYES
12.薊の森/中西亮輔
13.逆鱗/TeddyLoid
14.My darling Marry/ANANT-GARDE EYES
15.目に焼き付いた物語/じん
16.無力な僕と姉ちゃんと/ANANT-GARDE EYES
17.この理不尽な世界について/中西亮輔
18.シオン/ANANT-GARDE EYES
19.The Gatling Children/滝 善充(9mm Parabellum Bullet)
20.壊された世界/ANANT-GARDE EYES
21.子供達の創造する未来へ/ANANT-GARDE EYES
22.夏の続きを/じん
23.幻想曲「Medousa」/ANANT-GARDE EYES
<Disc.5>※DVD
1.幻想曲 「Medousa」 (完全版)
2.メカクシTV
3.夜咄ディセイブ (Animation Music Video)
4.メカクシティアクターズ スペシャルイベント MAKE a MAKAKUCITY ダイジェスト映像 (2014/08/15 渋谷公会堂)
5.daze (Lyrics Ver.) (Music Video)
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