REPORT
2015.03.07
2月21日に渋谷公会堂にて開催された、“やなぎなぎ ライブツアー2015「ポリオミノ」”の東京公演。同名のアルバムを引っさげての全国ツアーは、アルバムの世界観はもちろん、彼女が表現したい世界観を明確に表現しきった、アーティスティックな空間だった。
同名のアルバムタイトルでもあるこの“ポリオミノ”という言葉は、正方形の辺を繋げたブロックや、それを隙間なく並べるパズルゲームのこと。今回のツアーはそのタイトルにちなんで楽曲をブロックに見立てて、その繋げ方や並び方を変えることで違うものが見えてくるのでは――と、その公演だけの“ポリオミノ”を観客とともに作り上げていくというコンセプトだ。
開演とともに会場にまず流れたのは「polyomino-intro-」。曲とともに、ステージ背景のLEDモニターにカラフルなポリオミノのピースが増えていき、少しずつ組み上がっていく。そんななか静かにステージに上がったやなぎなぎは、その透明感のある歌声でイントロダクションを飾りゆく。アルバムパッケージを彷彿とさせる背景が完成したら、ロックテイストの強い「トコハナ」からライブ本格スタート。この日の彼女はステージ中央の、一段高い舞台でほぼ歌い続けていたのだけれども、この曲の間奏ではそこを降りて観客を煽る場面もみられ、会場をどんどんノせていく。
続く「Sweet Track」では、楽曲とシンクしてモニターにMVが流れるというステキ仕様に。普通の曲ならまだしも、歌始まりのこの曲でそれをやってのけたというのは驚きだ。さらにより爽やかさを増すナンバー「クロスロード」では、客席から自然と手拍子が。サウンドにほのかな青臭さと青春感をプラスする、彼女の歌声も見事。明るさを付加する技量と、彼女のボイスが合わさるからこそ完成した世界観だ。
荒々しい曲による“いちばん大変な”ブロックであることを予告した続いてのブロック最初の曲となった「2つの月」では、その荒々しさに加えて少しの妖艶さも感じる歌声に。聴きどころでもある高音部のファルセットが、よりその雰囲気を増幅させていた。続く「テトラゴン」では自然にクラップが湧き上がり、ラスサビではステージ上のやなぎなぎが逆にクラップを煽る。タイトルでもあるポリオミノのブロックが散りばめられたVJも、また鮮やかだった。そして少々ダンスナンバーの要素も入った「ファラウェイ・ハイウェイ」へ。小気味良いビートにうまく乗りながら、会場の温度を見事に上げる。ここで彼女は一旦ステージを降り、バンドメンバーそれぞれが全力でその温度をさらに高める。なるほど、そのサウンドに全力でノる観客にとっては、たしかに“いちばん大変なブロック”だ。
そこからシームレスに、「アクアテラリウム」のイントロスキャットの中ステージに戻るやなぎなぎ。この曲でもMVをバックにしつつ、こちらは透明感をより強め、たゆたうような心地よさを表現。その世界を十分味わったのか、曲明け彼女を包んだのは、万雷の拍手だった。続く「三つ葉の結びめ」とあわせて、TVアニメ『凪のあすから』のEDテーマブロックとなったこのパート。「三つ葉――」も楽曲の大まかな世界観は共通しているものの、作品展開等も反映して少し勢いづいたこの曲で彼女は、自ら先導して観客に光をもたらしているよう。
『凪あす』ブロックを堪能した観客からは、降壇中にチェンジされた衣装の背中側を観たいとの声が。そのリクエストに応えてうしろを向く彼女に、また拍手と歓声。そしてまた、ちょっと戸惑いながらも、はにかむ彼女。その波がひとしきり収まったところで、続いて向かうのは静かな曲のブロック。
「Rainy veil」ではレーザーでの演出が印象的で、1階席と2階席の間に幕を作ったり、やなぎなぎを鳥籠のように囲っていったりと、幻想的な演出も。だからこそ、彼女自身によるパフォーマンスは歌声一本に集中。まさしく一曲入魂の歌声だった。レーザーに続いては、スモークの海でゆったりとした歌声を響かせてくれた「Esse」へ。のちに自ら語るように「ここは“コンサート”といった感じ」のブロックだった。
MCで告げられたように、ライブはいよいよ終盤へ。最後にもうひと盛り上がりするブロックが待っている。花畑のVJに囲まれながら、春の訪れを告げるようなポップな歌唱を見せてくれた「landscape」。その春の匂いに誘われて、客席にはタオルの花が咲き乱れる。続けて春以外のすべての季節も彩ったあとは、赤青対称のポリオミノが目を引く「逆転スペクトル」へ。映像の方向性は変われど、彼女のポップな歌声は変わらない。
先ほどの「landscape」が春なら、続く「navis」は一面銀世界。サウンドが形作る冷たさを含んだ世界観のバラードに、壮大さをプラスした彼女の歌声が温かみを与えていた。
あっという間にラスト曲。その前に、密度の濃いライブを繰り広げてきた彼女から、最後の曲を披露する前にファンへ感謝のメッセージ。「今回は『ポリオミノ』という作品を引っさげてのツアーでした。公演に来てくださっている皆さんも、大事な大事なピースのひとつです。今回この『ポリオミノ』の世界を一緒に創り上げてくださって、ありがとうございます。また次の世界でお会いしましょう。」
そして、アルバムをも閉じる「polyomino」で締めくくり。1曲目とは逆に、少しずつ姿を消していくポリオミノのピース。そこに寂しさや悲しさを感じさせない、幻想的かつ不思議な世界観も彼女の持ち味なのだけれども、それを最後の最後まで発揮したまま、幕を下ろした。
止まぬアンコールの声に、再びモニターはピースに埋め尽くされる。その前に登場したやなぎなぎは、まず「You can count on me」で再び私たちの心を掴む。コール・アンド・レスポンスに加え、再び舞台を降りてファンのもとへ行くという、うれしさと楽しさの入り混じった盛り上がりっぷりを会場にもたらす。その証拠に、コール・アンド・レスポンスでモニターに映し出されたファンの顔は、みな笑顔だった。再びのバンドメンバーのソロ披露や「You can count on me!」の大合唱など、楽しさの詰まり切った時間だった。
MCではさらにうれしさふりまくお知らせが。1期に引き続き、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』のOPテーマの担当決定を発表。作曲を担当するのも引き続き北川勝利ということで、春に向けてまた期待高まるニュースであった。
そんな『俺ガイル』や先ほどEDテーマを披露した『凪のあすから』のほかにも、彼女が複数主題歌を務めた作品がある。ソロとして、メジャー・デビューを果たした作品、『あの夏で待ってる』だ。ラスト2曲を飾るのは、その『なつまち』のEDテーマたち。まずはOVA版のEDテーマ「point at infinity」から。甘酸っぱさと青空が似合うこの曲を、透明感の強い爽やかな歌声で彩るやなぎなぎ。客席からは自然とクラップが起き、それに応えるかのように彼女はサビで手を振り会場を一体にする。さらに間奏ではクラップを煽る彼女。もうクライマックスは目の前だ。
そしてオーラスはもちろんこの曲、「ビードロ模様」。彼女のツアーの最後の1ピースになるのは、メジャー・デビューを果たしたこの曲に他ならないだろう。その歌声の表情はCDリリース時よりもさらに進化しており、曲全体に甘酸っぱさを、さらにAメロ・Bメロには切なさをより強く込め、この大事な曲の魅力を最大まで引き出すように、隅々までていねいに歌い上げる。自身としても会心の出来だったのか、後奏が終わるとやりきったような笑顔を見せていた。
MCが少なくコンパクトには見えたかもしれないが、実は楽曲数はバッチリ揃った、彼女の歌声を十二分に堪能できるライブになっていた今回の公演。最高の楽曲にバンド、ファン、そして何より最高の歌い手――このピースがすべて埋まったからこそ、充実したライブに仕上がったと言っても過言ではない。彼女がMCで少しだけ言葉にした“次の世界”で、今度はどんな歌声を響かせてくれるのだろうか。その扉が開く日を、心待ちにしたい。
Text by 須永兼次
Photo By 松本孝之
“やなぎなぎ ライブツアー2015「ポリオミノ」”東京公演
2015.02.21@渋谷公会堂
【SET LIST】
<OP映像>
M1.polyomino-intro-
M2.トコハナ
<MC>
M3.Sweet Track
M4.クロスロード
<MC>
M5.2つの月
M6.テトラゴン
M7.ファラウェイ・ハイウェイ
<バンドソロ>
M8.アクアテラリウム
M9.三つ葉の結びめ
<MC>
M10.Rainy veil
M11.Esse
<MC>
M12.landscape
M13.逆転スペクトル
M14.navis
<MC>
M15.polyomino
<以下アンコール>
EN1.You can count on me
<MC>
EN2.point at infinity
EN3.ビードロ模様
やなぎなぎ ライブツアー2015「ポリオミノ」追加公演
2015年3月8日(日) 東京・Zepp DiverCity Tokyo
開場16:00 / 開演17:00
(問)ディスクガレージ 050-5533-0888
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