INTERVIEW
2014.08.20
牧野由依の約3年ぶりのシングル「囁きは”Crescendo”」はキラキラとしたポップナンバー、本人が作詞を手掛けたアッパーチューン、そしてボーカロイド曲カバーとバラエティ豊かな1枚に仕上がった。そして新たな試みをする“ライブ”と、レーベル移籍後にも待ち続けたファンの期待に応える充実した活動が目の前で進行している。そんな自身をどのように表現していったのか。楽曲制作を通じて語られた“今”の彼女にはきちんと“過去”からの繋がりが息づいている。
――「囁きは”Crescendo”」はレーベル移籍後初、約3年ぶりのシングルとなります。まずは、今作の制作に至るまでの様子を聞かせていただけますか?
牧野由依 制作スタッフの方と最初にお会いしたのは去年の6月ぐらいで、そこからどういう方向の音楽を作りたいかというすり合わせをしつつ、ようやくこの8月にリリースすることができるということで、ゆったりとした制作期間のなかで作ることができました。今まで応援してくださっている方々の持つ牧野由依のイメージも大事にしつつ、良い作品をこれからまた新しくできたらいいなと思いながら制作しています。
――移籍に伴い、制作チームも変わりましたか?
牧野 近いところのスタッフさんは変わってはいますが、作家さんはお久しぶりの方も初めましての方もいて、スタジオに入った時にすべてが変わっているというわけではないので、リラックスした感じでやらせていただいていますね。
――昨年6月から、良い意味で煮詰める時間は持てましたか?
牧野 すごく大きな話でいうと、活動をしていく上で牧野由依という名前を知ってもらうことがすごく重要だと思ったので、それはアニメ作品により多く関わっていけるようにということも含め、いろんな音楽を吸収して音のバランスの流行などを感じて、自分の中での”軸”というものをちゃんと作れるようにしていきました。
――では各楽曲にお話を移らせていただきます。表題曲の「囁きは”Crescendo”」はアニメ『フランチェスカ』の主題歌となっていますが、こちらはどのように作られたのでしょうか?
牧野 デモをいただいたのは去年の9月ぐらいでした。そこから『フランチェスカ』の作品に寄り添いつつ、久々のシングルの表題曲として出すにあたって牧野らしさを出せるようにいろいろ細かい作業に入っていきました。メロディも一筋縄ではいかないテイストを入れていただいたり、作品自体がかわいい女の子が出てくるものなので、そこを大事にしてかわいさを持ったガールズ・ポップにというアレンジをお願いしました。あと、なぜかデモの段階から化粧品のコマーシャルのイメージがすごくあって(笑)。そんな感じでと作・編曲の川田さんと実際に会って打ち合わせをさせていただいてお願いしました。かなりわがままを聞いていただいた曲になっています(笑)。
――牧野さんでその話題といえば「お願いジュンブライト」(資生堂 「ELIXIR WHITE」CMソング;2011)がありますが。
牧野 そうなんですよね。でも、何の先入観なく聴いても化粧品のCMみたいに聴こえるんですよ(笑)。曲調がミディアムテンポで、弦が入っていて軽やかさもあるし、ゆったりとした流れの中でメロディが目まぐるしく動く。それが相まってそういう印象になっているのかなと。
――歌詞についてのイメージはどのようにお伝えされましたか?
牧野 媚びないかわいい女子というイメージをお伝えして、ちょっと小悪魔要素がある雰囲気でお願いさせていただきました。「囁きはクレッシェンド」って不思議な言葉ですよね。現実的に捉えるとクレッシェンドしていったら最後の方は囁いていないんですけど、そこは感覚的に心地よく聴いていただくということで(笑)。
――お歌いになるときはどんなイメージを込めましたか?
牧野 やっぱり歌詞のイメージに合わせるところかなと思うんですけど、あまり甘えすぎず凛とした感じを出しつつ歌いたいなと。たぶん元々の自分の声質的には甘い感じがあると自覚があったので、凛とした部分を少し意識して歌っています。
――この曲のMVも開放感のある公園ですが、北海道ですか?
牧野 これはしてやったりですね(笑)。実は埼玉県なんです。空の色がコロコロ変わるなかでの撮影だったんですけど、晴れ女・牧野が功を奏して大事なところではちゃんと青い空が映ってくれてよかったなと思いつつ、裏話を言うとみんな蚊に刺されて大変でした(笑)。
「オワラセテシマイタイ」と綴った心境
――では次の曲に。「ハチガツノソラ」では作詞をされていて、それは難産だったそうですね。
牧野 まず大きなくくりからお話しすると、現在の私は28歳で同級生とか地元の友達を見渡すと、結婚してお子さんがいたり、自分を極めたいと旅に出ている子もいたり、みんなそれぞれに自問自答しながらいろいろな取捨選択をしている。そのなかで自分の今いる場所を振り返ったときに、みんなと違う道に来ちゃったんだと寂しさを感じる瞬間もあるし、選んだこの道の先を見てすごく誇らしく思うときもあるんです。そうやって自分のいる場所について考えることがすごく多かったので、それを歌詞にしてみようかなと、まず打ち合わせの段階で決めて。
――「お願いジュンブライト」のときもお友達のことをおっしゃっていましたね。
牧野 その子たちが3年経って子供を産んだということですね(笑)。そんな思いと、8月リリースということで、この時期に合わせた曲にしようと思ったりして、ではそこをどう繋げるか。書きたいことはあったんですけど、煮詰まって何度も書きなおして2週間近くほぼ毎日徹夜をしていました。だから明け方に空を見ることが多くて、「ああ今日も徹夜だ……」っていう時の私の心の叫びが、歌の冒頭の「オワラセテシマイタイ」に繋がったり(笑)。何かセンセーショナルな言葉がないかなと考えていたときに、今の心情は……これだ、「早く終わらせてしまいたい」と(笑)。
――今のお話、途中まではすごく心配しながら聞いていました(笑)。
牧野 (笑)。そんなわけですごく悩んだりするんですけど、「明けない夜はない」ので。どういうふうに見られたいとか、いろんなものを纏っているからこそ辛いわけであって、自分の決めたことなら前向きに捉えられるようになるし、ありのままの自分で行けばそんなに怖がることもない。それでいいじゃないかというメッセージなっています。
――この歌詞の中で色表現を「金糸雀(カナリア)色」「薄花色」と印象的な言葉遣いで表現をされているのにはどんな意図が?
牧野 時間経過を空の色で表現すると、見ているものはみんな違うけれど、曲を聴くことでみんなが同じ景色や色を共有できたらすごくいいなと思ったんです。それで色だけは直接的な言葉で表現しようと思ったときに、以前の曲で「碧の香り」を書いた際に和名を使ったので、今回もカラーチャートから和名を探して当てはめていきました。「薄花色」とか、パッと聞いただけでは想像できない色もあって、そこで考えていただけるというワンクッションもありますし、実際の色を知って歌詞に戻るとだんだん夜が明けていっているのねとわかるよう、何層にも仕掛けをしている歌詞にしたいなと思って、敢えてこの様に書いています。
――夏の明け方の空もまたいいものに感じられますよね。
牧野 夏の空ってすごく好きで、雨上がりの空の何とも言えないあの空気感が味わえるような曲の構成とか音の感じになっていると思うので、そこに結びついていくといいなと思います。
――楽曲的な印象はいかがでしたか? 市川(淳)さんは東京音大の先輩にあたりますよね。
牧野 はい。私より少し上で、市川さんが大学に通われていた頃、おそらく私は附属高校の生徒だったので、比較的近い先輩ですね。私は劇伴を聴くことが多く、以前からお名前は存じていて。劇伴を聴いているとこの方に歌モノをお願いしたいなと思うことがあるんです。それで今回お願いしたところ受けていただきました。今までアッパー・チューンをそんなに歌っていなかったので、そういう楽曲をとお願いしました。この曲は自分の音域をけっこうフルに使っている曲です。ちょっとトリッキーな部分があったりといろんな仕掛けがされているのがすごく面白くてかっこいいんですよね。下の方で聴こえてくるリズムパターンとか、サビに入る前も何拍で入っているの?っていうフックがあったりしてすごく面白いです。
――歌手としてもぶつかりがいのある楽曲では?
牧野 歌詞を乗せる時点で結構歌いながらだったので、レコーディングが楽しみでした。サビもハイトーンになるので、そこがキンキンしないようにと気をつけるところもありましたね。5月31日のコンサートで披露した時に照明の方が「薄花色」を調べて出してくださったので、その時の映像を見てイメージを組み立てながらレコーディングに臨みました。
次の”ライブ”のコンセプトは「テーマパーク」
――「今日も1日大好きでした」の原曲はpal@popさんのアルバム(「feat.PLUS」)で初音ミクを使った曲に牧野さんがコーラスで参加されていたものですが、そもそもこれはどのような形で実現されたのでしょうか?
牧野 私が2010年に出したシングルの「ふわふわ♪」でご一緒させていただいて、そこからの流れですね。「feat.PLUS」の際に「Zipper」という曲でfeat. 牧野由依として歌わせていただいていて、もうひとつ別の曲でコーラスをお願いしますといただいた曲だったんです。
――楽曲としてはどんなところがお好きですか?
牧野 pal@popさんが作られている楽曲はテクノポップではあるんですけど、メロディはすごく懐かしい感じがするんですよね。それは決して古いということではなく、古き良き時代のテイスト。メロディのなかにちょっとフォークとかの匂いを感じるようなものがあったりして楽曲の雰囲気全体が好きですね。これまでコンサートでも歌わせていただいていて、そのときは元々の初音ミクが歌っているバージョンに寄せる感じの編成で演奏していたんですけど、せっかく出させていただくなら別の楽しみ方があってもいいんじゃないかと思って、空気感を大事にほっこりするアンプラグドな雰囲気にとリアレンジをお願いしました。
――歌入れはどんな様子でしたか?
牧野 pal@popさんの曲は基本的に息継ぎをする箇所がないと覚悟して臨んでいるので、この曲はバラードなので歌いやすい方だったかなと。逆にスローテンポだからこその緊張感の方があったかもしれません。そこで大事にしたい空気が途切れてしまわないように歌っていくというのがすごく難しかったです。どの曲でもそうですがこの曲は特に集中力が必要で、一瞬でも魔が差すと全部が崩れていく難しさがありますね。これはコンサートで歌うときからずっと感じていました。アレンジで小編成になったため、弦楽器の弓が弦に当たってこすれる音すら感じられる雰囲気の中で歌うので、決してがさつになってはいけないですし、楽器がひとつひとつ音を奏でていく上に、きちんと歌を乗せる必要があるなと思いながら歌っていました。
――ピアノも弾かれていますが、プレイヤーとしてはいかがでしたか?
牧野 ピアノも基本はこんな感じでと譜面をいただいていたんですけど、弾いているうちにこんなフレーズを入れたいなというのが自分の中で出てきてしまったので、それをレコーディング当日に聴いていただいて、そのまま弾かせていただきました。
――そしてこのシングルを引っさげて行なわれる10月のライブはこれまでのコンサート形式とは異なるスタンディング形式で行なわれるそうですね。
牧野 今回のシングルはバラエティに富んだものになったかなと思っていて、それをどういう形にしたらステージで出せるかなと色々相談した結果、ライブという形になりました。テーマパークって、入り口は一緒だけど中に入るといろんな世界を見ることができるように、このシングルで色々な私を見ていただけるようなコンセプトにできたらと。コンサートも長い年月をかけて今の形にしてきたので、今度は冒険心をもってライブという形でやってみるのもいいのかなと思って。悩みどころでもあるんですけど、やり始めないと形も決まっていかないと思うので、ライブに関してはこれからスタートという感じですね。キャラクターソングをセルフカバーしようという話もしているので、色々と面白いことができたらいいなと考えています。
Text by 日詰明嘉
[プロフィール]
マキノユイ/声優/歌手/ピアニスト。 3歳から芸能活動、4歳よりピアノを始める。東京音楽大学付属高校ピアノ科、同大学 器楽専攻ピアノ科卒業。8歳から17歳にかけて岩井俊二監督映画『LOVE LETTER』『リリィ・シュシュのすべて』『花とアリス』の劇伴音楽のメインピアニストとして参加。2005年、CLAMP原作アニメ『ツバサ・クロニクル』のヒロイン・サクラ役で声優デビュー。同年に劇場版『ツバサ・クロニクル』主題歌「アムリタ」で歌手デビュー。2011年春、資生堂「ELIXIR WHITE」CMソングアーティスト(「お願いジュンブライト」)に起用され注目を浴びる。
■シングルCDリリース情報
牧野由依「囁きは”Crescendo”」
2014年8月20日発売
価格:¥1,143+税
品番:TECI-349
<CD収録内容>
1.囁きは”Crescendo” 作詞:こだまさおり / 作曲・編曲:川田瑠夏
(※UHB北海道文化放送アニメ『フランチェスカ』主題歌)
2.ハチガツノソラ 作詞:牧野由依 / 作曲・編曲:市川 淳
3.今日も1日大好きでした。 作詞・作曲・編曲:pal@pop
4.囁きは”Crescendo”(instrumental)
5.ハチガツノソラ(instrumental)
■ライブ情報
Yui Makino LIVE“Welcome to the Yuchhiyland ~牧野的夢中空間~”
●東京公演
公演日程:2014年10月5日(日)開場 16:30 / 開演 17:00
会場:duo MUSIC EXCHANGE
チケット料金:オールスタンディング 5,800円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可
※1ドリンク別途500円
公演に関するお問合せ:HOT STUFF 03-5720-9999 (平日12:00~18:00)
●札幌公演
公演日程:2014年10月18日(土) 開場 17:30 / 開演 18:00
会場:cube garden
チケット料金:オールスタンディング 5,800円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可
※1ドリンク別途500円
公演に関するお問合せ:cube garden 011-210-9500(平日11:00~17:00)
●チケット一般発売:2014年9月6日(土)から
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