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INTERVIEW

2014.06.24

玉置成実『NT GUNDAM COVER』発売記念!スペシャル・インタビュー第2弾・アレンジャー岸 利至と、クリエイターからの楽曲解説!

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abingdon boys schoolなどで活躍するコンポーザー・アレンジャーの岸 利至。なんと彼が6月25日に発売となる、玉置成実による『ガンダム』シリーズ楽曲のカバー・アルバム『NT GUNDAM COVER』に、アレンジャーとして参加した。自身も青春時代を『ガンダム』とともに過ごしたという彼が語る、スペシャル・インタビューをお届けする。
※スペシャル・インタビュー第1弾・玉置成実編はこちら!

 

――まずは岸さんが玉置さんの今回のアルバム、しかも『ガンダム』楽曲のカバー・アルバムに参加した経緯からお聞きしたいと思います。

岸 利至(以下:岸) 玉置さんの方からオファーをいただいたのがきっかけですね。これは僕の予想なんですけど、abingdon boys schoolとか、僕がアレンジで参加したT.M.Revorutionの作品とか、そのへんのサウンドを聴いて気に入ってもらえたのかなと。ハードな部分とデジタリックでクールな部分を兼ね備えたアレンジが求められてるんだなと受け取りました。

――オファーを受けるにあたって玉置さんの作品を聴かれたとのことですが、率直にどんなシンガーだと感じられましたか?

 初期の楽曲を聴くとダンサブルなイメージがあったんですけど、最近の作品には結構ハードなものもあって、最初はどっちの方向性でいきたいのかなっていうのを探る感じでした。ただ、そこから打ち合わせをしてみて、この人はダンサブルとハードの両立を目指すシンガーなんだとすぐに感じ取れました。

――デジタルな部分とハードロックな部分を凝縮したものを作っていきたいと。

 僕の場合、特にabingdon boys schoolでは、デジタルな音でもハードなものを作り出しているので、アナログかデジタルかというよりも、ダンサブルかつハードな音が出せればいいなというのが今回のポイントでしたね。

――ということは玉置さんとは、このアルバムのサウンドの方向性や彼女が思う完成像など、コンセプトについて話し合いをされたんですか?

 本人ともよく話しましたし、実は玉置さんが最近出したシングルのエンジニアが僕がいつもお世話になってるかたで、今回の依頼をいただく前にスタジオで彼女の音源を聴かせてもらっていたので、とても入り込みやすかったです。

――カバーする楽曲は玉置さんが選曲されたそうですが、岸さんが担当された3曲というのは話し合いの中で決まったんですか?

 そうです。最初に収録曲のリストをいただいて、その中から選ばせてもらいました。なかなか贅沢な経験ですよね(笑)。

――ということは明確なセレクトの意図があったということですね。岸さんが選んだこの3曲は元々聴いていらしたんですか?

 お恥ずかしい話なんですが、3曲ともじっくり聴かせてもらうのは初めてでした。大好きな『ファースト』と以前アレンジをやらせてもらった『Gガンダム』には思い入れが強いのですが、それ以外はしっかりと観ていたわけではなかったので。ただ、今回は主題歌ではなくひとりのシンガーのアルバムなので、あまり『ガンダム』のことは考えずに、玉置さんの作品として素敵なものにするのを念頭に制作しました。

――単純に原曲を聴いて、玉置さんというボーカリストを活かすアイデアが浮かんだのがこの3曲ということですね。

 まさにその通りです。エッジの効いたハードさと、ポップな感じが一番出せる曲を選びました。その中でも僕の得意技みたいなものを出せる曲として「嵐の中で輝いて」と「DREAMS」を選んで、僕がメロウなものが好きなので、「暁の車」を聴いたときに単純に曲として素晴らしいと感じで、この3曲に決めました。

――岸さんアレンジの「嵐の中で輝いて」と「DREAMS」を聴いたときに、デビュー当時の玉置さんの雰囲気を感じました。まず「嵐の中で輝いて」の音作りでは、具体的にはどんな部分を一番意識して作られましたか?

 制作チームとともに話して決めたのは、「崩しすぎない」ということですね。元の楽曲が素晴らしいし、人それぞれにアニメの中で流れる曲を聴いて感じた想いがあると思うので、外しちゃいけないポイントは絶対守ろうと意識しました。ただこれはカバーであってコピーではないので、逆にそのポイントさえ守れていれば、自分の色を出していった方が面白いものになったり、玉置さんのボーカルが引き立つだろうなと。だからギターソロなどは僕のバンド仲間を呼んできて「思いっきり派手にやっちゃって」ってお願いして。リズムパートは生ドラムを使わずにダンサブルにしようと意識して、そのうえでベースラインとギターのエッジ感はabingdon boys schoolと同じ感覚で作っていきました。

――確かに3曲中でこれがいちばんabingdon boys schoolっぽいというか、岸さんらしさを感じました。次の「DREAMS」ですが、原曲のどんな部分をポイントだと感じたのですか?

 サビですね。サビが自然に口ずさめるんです。収録曲の中から僕の担当曲を選ぶときに、それぞれの原曲を何回も聴いたんですが、いちばん耳に残ったのがこの曲のサビでした。その段階でアレンジのアイデアもいくつか浮かんでいたので、これはいけるぞと思って選びました。

――間奏でのダブで溜めてからのギター・ソロなど、この曲は結構遊びというかトリッキーな工夫が盛り込まれていますね。

 僕は普段から曲の中で遊べるポイントを常に考えているので、ギタリストと話して「かっこいいからいいんじゃない?」って感じで楽しんでやりました。この曲は僕が想定していたキーよりもやや下げたんですけど、完成してみればその下からスタートする感じが、後半に行くにつれて物語的に盛り上がる感じで良かったと思います。

――3曲目「暁の車」は先ほど「単純にいい曲」という感想がありましたが、具体的にはどんな部分に良さを見出したのでしょうか?

 メロディーと歌詞です。最後まで解決しない感じ、落ち着かなくてアンニュイな感じがすごく好きです。だから僕のアレンジにおいても、すっきりしない感じは残して終わるのを目指しました。第一楽章がアコギ主体なのは原曲とほぼ同じですが、実はなにか違う手はないかと試行錯誤したんです。でも結局思いつかなくて、それはつまり元のアレンジがいちばん曲に合っているんだなと。もちろんリズムを足したりアコギのパターンを変えたりはしていますが、基本の展開は原曲の形を残しました。そのぶん第一楽章が終わってからはカバーならではの劇的な変化をしていくわけですけれど。

――この曲は劇中だと炎のシーンで印象的に流れる曲なんですが、個人的に今回のアレンジは音などから水のイメージが思い起こされて、こういう解釈もあるんだなと新鮮に聴かせていただきました。

 なるほど、ある意味対極だったわけですね。たしかに炎のイメージは僕にはなかったです。でもアレンジするうえでは、特に水っていうイメージも持っていなかったんですよ。それよりもタイトルでもある“暁”の、夜明け前のなんとも言えない自然な状態、神秘的な感じを出そうと考えていました。

――神秘的な始まりから、二番に入るとアルペジオが追加されていき、二番サビの後はテンポも上がってハードな展開へ入るという。あそこを劇的に変えるというのは最初から考えていたのですか?

 アレンジが進んでいくなかで制作チームからアイデアが挙がりました。当初は原曲の世界観のまま、どんどんスケールアップして感動的に終わるイメージを持っていたのですが、せっかくのカバーだし、アイデアが出ると試したくなるのが僕らのサガなので。それで思い切ってやってみたら、どんどん派手になっていきました(笑)。テンポ的にはこの曲が本来持つべきものからはちょっと無理をした感じではありますが、これはこれで面白いし、ここでしかできないオリジナルなものになり、よかったと思っています。

――お話を聞いていると、今回の3曲のサウンド作りは、求められたabingdon boys schoolらしさは出しつつ、楽しいことや新しいことをやってみようというチャレンジの方が大きいように感じます。

 これは僕の持論なんですけど、“純粋にまったくの新しいアイデア”ってもうほとんどないと思うんです。たしかにダブ・ステップとか最新の音楽は出てきていますけど、基本的には組み合わせの妙であって、アイデア自体は出尽くしてると思うんですね。だから、それを無理強いして新しいものを生み出していくよりも、クリエイターが作りたいと思う事を感覚を頼りに作っていくことが大事だと思っています。そしてそれが、周りの人と面白さを共有できたら最高だと思っています。今回もチャレンジというよりも思うがまま作ったという感覚です。

――玉置さんのレコーディングに関してもすべてディレクションされたんですか?

 ボーカル録り以外はミックスダウンまですべて行いました。

――そうすると、自分のアレンジに玉置さんの歌が入った状態を聴いて、驚きとかインスピレーションを受けたりはしましたか?

 もちろんありました。しなやかかつ、僕の作ったオケに負けない声、素敵でした。ある程度は玉置さんの声を想定しながらアレンジを作りますが、歌入れまでは仮メロが入った状態で作業するので、やっぱり耳に聴こえている音の方を意識してしまいます。それが玉置さんの歌になったときに、ここのシンセがちょっと違うなとか、ここを変えればボーカルがもっとよく聴こえるなっていう部分は絶対に浮き彫りになるので、そこを感覚で直していきました。ミキシングではほかの音も強調したいとかの欲も出ましたけど、そこはこらえて歌を前に出そうと意識していました。

――ボーカル曲のミキシングバランスって、皆さん自分なりの指針があると思うんですが、岸さんは今回のアルバムではどこが一番のポイントだと感じていますか?

 シングルかアルバムの曲かでも違いますし、アーティストとしての表現手段として、歌におもむきを置くのか、楽曲全体におもむきを置くのかでも変わってくるので、難しいところではあります。今回はカバーであることと、abingdon boys school色にしてくださいっていうオファーもあったので、その2点を踏まえて歌の音量をそれほど大きくせずに作れないかとは考えました。楽曲にもよるんですが、abingdon boys schoolにおける音の作り方として、とにかく音数をいっぱい入れるのですが、ブラッシュアップや、ミキシングによってそれをなるべく分からないようにしたいんです。そうやって作るとリスニング・シチュエーションによって音の聴こえ方がまったく変わるんですよ。ドラム、ベース、ギター、ピアノ一本とかでシンプルに作ると、どこで聴いても感覚的にサウンドの質は変わらないんですけど、シンセを20個、パーカッションを20個とか入れると、小さいスピーカーだと3個しか聴こえないけれど、大きい音で聴くと10個に急に増えたり、ヘッドホンで聴くとさらに15個に増えたりして、いろいろな楽しみ方ができる。そうやっていろいろな方法で何度も聴いて楽しんでもらえるといいなと。

――取材で何度かミキシングの現場を見学しましたが、本当に難しい作業だなと思います。

 そうですね。ただ今回ミキシングを担当してくれたのがabingdon boys schoolの作品などを手がけてくれている方なので、信頼して基本の部分は委ねています。実は僕がそんなに大きくしなくてもいいと思っていた音がすごく大きくなっていたり、その逆もあったり、ラフミックスと比べると結構音が変わっているんですけど、そこも含めて力を借りるつもりでお願いしています。「相変わらず注文が多いな」って思われてるかもしれませんけど(笑)。

――今回は岸さんも含めて3名のアレンジャーが参加していますが、ほかのお二方の楽曲はいかがでしたか?

 アルバムの中に複数のアレンジャーさんがいると仲間でもありライバルでもあるので、実はお酒を飲みながら軽くしか聴いていないんです(笑)。真剣に聴いちゃうと「くそー!」って思ったり「勝った!」って思ったりして、僕はそういうのが嫌なので「ああそうきたかー」ぐらいにしておこうと思って。

――そうやって聴いたなかでもなにかしらの感想は持たれたりしたと思うのですが、そこを聞かせていただければと思います。

 Tom-H@ckさんは面識はないんですが、以前T.M.Revolutionの曲をアレンジしたのを聴いていたので、相変わらずクオリティーの高いサウンドに仕上がってるなと感じました。それから、実は僕がこのアルバムで3曲選ぶときに最後まで悩んだ曲が「めぐりあい」なんですよ。だからレフティーモンスターさんのアレンジはとても興味深く聴かせてもらいました。「うおーそうきたかー!」って。

――メタルか!って思うぐらいドコドコきてましたね。

 かっこいいし、ふり幅としては全然アリだと思いますよね。でもそれを聴いたからといって「やればよかったな」とは全然思わないし、僕はこの3曲を選んで絶対正解だったなと思います。僕が「めぐりあい」を聴いて劇中のシーンを思い浮かべるように、ファンの皆さんにとってはどれも大切な曲だと思うので、メロディーは大切にしようと。そこを大切にしつつアレンジすればファンを裏切ったことにはならないだろうと信じて一生懸命作りました。

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